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2025年06月26日

バイオリンの弓に使われている馬のしっぽの秘密

はじめに

こんにちは、ライブ喫茶ELANです。
名古屋の街角で、日々多くの音楽愛好家の皆様にお越しいただき、心から感謝しております。

今日は、当店でもよく演奏されるバイオリンについて、意外と知られていない興味深い話をお届けしたいと思います。バイオリンの美しい音色を生み出すために欠かせない弓について、その材料に使われている「馬のしっぽ」の秘密に迫ってみましょう。

バイオリンの弓の基本構造

バイオリンの弓は、一見シンプルな構造に見えますが、実は非常に精密に作られた楽器の一部です。弓は主に以下の部分から構成されています。

スティック部分 弓の本体となる細長い棒状の部分で、通常はペルナンブコ材やカーボンファイバーなどで作られています。この部分の重量バランスや柔軟性が、演奏者の表現力に大きく影響します。

フロッグ(弓元) 弓の下部にある黒い部分で、演奏者が握る箇所でもあります。通常は黒檀で作られ、金属製のフェルールと組み合わせて弓毛を固定する役割を担っています。

チップ(弓先) 弓の先端部分で、弓毛のもう一方の端を固定します。この部分の形状や重さも音色に影響を与える重要な要素です。

そして弓毛 今回の主役となる、弦を震わせて音を生み出す最も重要な部分です。

弓毛の正体は本物の馬の毛

多くの方が驚かれるのですが、バイオリンの弓に使われている白い毛は、実は本物の馬のしっぽの毛なのです。これは決して比喩や俗称ではなく、文字通り馬から採取された天然の毛を使用しています。

なぜ馬の毛なのか

馬の毛が選ばれる理由は、その独特な構造にあります。馬の毛の表面には、顕微鏡で見ると細かい鱗状の構造(キューティクル)があり、この凹凸が弦に適度な摩擦を与えることで音を生み出します。人間の髪の毛や他の動物の毛とは異なる、この特殊な表面構造こそが、バイオリンの美しい音色を生み出す秘密なのです。

使用される馬の種類

すべての馬の毛が弓に適しているわけではありません。主に以下の地域の馬から採取された毛が使用されます。

  • シベリア地方の馬(最高品質とされる)
  • モンゴル地方の馬
  • 中国北部の馬
  • アルゼンチンの馬

これらの地域の馬が選ばれる理由は、寒冷な気候により毛質が強く、太さが均一で弾力性に優れているからです。特にシベリア産の馬の毛は、極寒の環境で育つため非常に丈夫で、プロの演奏家にも愛用されています。

一本の弓に使われる馬の毛の本数

驚くべきことに、一本のバイオリンの弓には約150本から200本もの馬の毛が使われています。この本数は楽器の種類によっても異なり、以下のような違いがあります。

楽器別の弓毛本数

  • バイオリン:150〜180本
  • ビオラ:170〜200本
  • チェロ:200〜250本
  • コントラバス:300〜400本

楽器が大きくなるほど、必要な弓毛の本数も増えていきます。これは、より太い弦を震わせるためにより多くの摩擦面が必要になるからです。

弓毛の長さと太さ

使用される馬の毛は、長さが約65センチメートル、太さは約0.15〜0.18ミリメートルという非常に細いものです。この細さでありながら、適度な強度と柔軟性を持っているのが馬の毛の特徴です。

弓毛の製造過程

馬のしっぽから弓毛になるまでには、非常に複雑で丁寧な工程があります。

採取から選別まで

馬のしっぽは、馬が生きている間に定期的にカットされ、一度に採取される毛の束は約100〜200グラム程度です。採取された毛は、まず色、長さ、太さ、品質によって厳格に選別されます。

白い毛だけが弓毛として使用されるため、茶色や黒い毛は除外されます。また、毛根から毛先まで均一な太さを保っているもの、適度な弾力性を持つものだけが選ばれます。

洗浄と加工

選別された馬の毛は、専用の洗剤で数回洗浄され、天然の油分や汚れを除去します。しかし、完全に脱脂してしまうと毛が脆くなるため、適度な油分は残されます。

その後、長さを揃えてカットし、束ねて乾燥させます。この工程で、毛の方向性(毛根側と毛先側)を統一することが重要です。

品質検査

最終的に、各束の毛について以下の項目で品質検査が行われます。

  • 強度テスト
  • 柔軟性テスト
  • 摩擦係数の測定
  • 色の統一性チェック
  • 長さと太さの均一性確認

弓職人による弓毛の取り付け

弓毛の取り付けは、熟練した弓職人の手によって行われる非常に繊細な作業です。

毛替えの工程

弓の毛替えは、専門的な技術が必要な作業で、以下の手順で行われます。

  1. 古い毛の除去: 既存の毛をフロッグとチップから注意深く取り外します。
  2. 毛の準備: 新しい馬の毛を適切な本数分束ね、長さを調整します。
  3. フロッグ側の固定: 毛束の一端をフロッグ部分にしっかりと固定します。
  4. 張力の調整: 毛の張り具合を調整しながら、もう一端をチップに固定します。
  5. 最終調整: 全体のバランスを確認し、必要に応じて微調整を行います。

職人の技術

弓毛の取り付けには高度な技術が必要で、毛の張り具合、本数の調整、固定方法など、すべてが演奏に影響する重要な要素です。経験豊富な弓職人は、演奏者の好みや演奏スタイルに合わせて、これらの要素を微調整することができます。

弓毛が音に与える影響

馬の毛が持つ独特な性質は、バイオリンの音色に大きな影響を与えます。

摩擦による音の生成

馬の毛の表面にある微細な鱗状構造が、弦との間に適度な摩擦を生み出します。この摩擦により弦が規則的に振動し、楽器の音色が生まれます。摩擦が強すぎると音が荒くなり、弱すぎると音が出にくくなるため、絶妙なバランスが重要です。

松ヤニとの相互作用

弓毛だけでは十分な摩擦を得ることができないため、松ヤニ(ロジン)という樹脂を塗布します。松ヤニが馬の毛の表面構造と組み合わさることで、理想的な摩擦係数が生まれ、美しい音色を実現できます。

温度と湿度への反応

馬の毛は天然素材のため、温度や湿度の変化に敏感に反応します。湿度が高い日は毛が膨張し、乾燥した日は収縮します。この特性により、演奏者は常に微調整を行いながら演奏することになります。

合成素材との比較

近年、技術の進歩により合成繊維を使った弓毛も開発されていますが、多くのプロ演奏者は依然として馬の毛を選択しています。

合成素材の利点

  • 耐久性が高い
  • 湿度や温度の影響を受けにくい
  • 均一な品質を保てる
  • アレルギーの心配がない

馬の毛の利点

  • 自然な摩擦特性
  • 複雑で豊かな音色
  • 松ヤニとの相性が良い
  • 演奏者の表現に敏感に反応

多くの演奏者が馬の毛を選ぶ理由は、その音楽的な表現力の豊かさにあります。合成素材では再現できない、微妙なニュアンスや表現の幅が馬の毛には存在するのです。

ライブ喫茶ELANでの体験

当店ライブ喫茶ELANでは、多くのバイオリニストの方々にご出演いただいております。間近で聞くバイオリンの音色は、まさに馬の毛と弦の絶妙な摩擦から生まれる芸術品です。

演奏前に、アーティストの方々が弓に松ヤニを塗る姿を見ることができるのも、ライブ喫茶ならではの醍醐味です。その瞬間に、今日お話しした馬の毛の話を思い出していただければ、より一層音楽を深く味わっていただけることでしょう。

環境への配慮と持続可能性

現代では、動物の毛を使用することに対する倫理的な議論もあります。しかし、弓毛に使用される馬の毛は、馬を傷つけることなく採取されており、馬にとっては定期的なトリミングと同様の行為です。

また、一度採取された毛は非常に長持ちし、適切にメンテナンスされた弓毛は数ヶ月から1年以上使用できます。これは、持続可能な資源利用の観点からも評価できる点です。

まとめ

バイオリンの弓に使われている馬のしっぽの毛について、詳しくご紹介してきました。一本の弓に150〜200本もの馬の毛が使われ、その一本一本が美しい音色を生み出すために重要な役割を果たしています。

次回ライブ喫茶ELANでバイオリンの演奏をお聞きになる機会がございましたら、ぜひこの話を思い出してください。演奏者の指先から生まれる美しいメロディーの陰に、遠い草原を駆け抜けた馬たちの存在があることを感じていただけるはずです。

音楽は、人間の感性と自然の恵みが織りなす奇跡的な調和の産物なのです。


ライブ喫茶ELANでは、毎日様々なアーティストによる生演奏をお楽しみいただけます。バイオリンをはじめとする弦楽器の演奏も定期的に開催しておりますので、ぜひ足をお運びください。

 

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