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2025年08月23日

なぜレコードの内側ほど音がこもるのか?アナログの魅力に隠された物理の秘密

ライブ喫茶ELANにお越しいただくお客様からよく聞かれる質問があります。
「レコードを聴いていると、曲の終わりに向かって音がこもってくる感じがするのはなぜですか?」

当店では毎日様々なアナログレコードをかけておりますが、確かにA面やB面の最後の方の楽曲は、冒頭の楽曲と比べて音質が変わって聞こえることがあります。これは決してレコードの劣化や故障ではなく、アナログレコードの物理的な構造に起因する現象なのです。

今回は、この興味深い現象について、これまで数千枚のレコードに触れてきた経験も交えながら、詳しく解説させていただきます。音楽愛好家の皆様にとって、きっと新しい発見があることでしょう。

レコードの基本構造とは

まず、レコードがどのような仕組みで音を記録・再生しているのかを理解しましょう。

アナログレコードは、円盤状の樹脂に螺旋状の溝が刻まれています。この溝の形状が音の波形を物理的に表現しており、針がその溝をなぞることで音が再生される仕組みです。

当店でも使用している一般的なLPレコード(Long Play)は、直径30センチメートルで、毎分33回転で再生されます。外側から内側に向かって連続した一本の螺旋状の溝が刻まれており、一般的にA面で約20分、B面で約20分、合計約40分の音楽を収録することができます。

レコードの溝は想像以上に細かく、1ミリメートルの幅に約3本から4本の溝が刻まれています。この精密さこそが、アナログレコード特有の豊かな音質を生み出している要因でもあります。

当店のコレクションには、1950年代から最新のリイシューまで様々な時代のレコードがありますが、基本的な構造はほとんど変わっていません。これは、アナログレコードの技術が非常に完成度の高いものであることを示しています。

しかし、この完成された技術にも物理的な制約があります。それが今回のテーマである「内側ほど音がこもる現象」の原因となっているのです。

線速度の変化が音質に与える影響

レコードの音質変化を理解するために最も重要な概念が「線速度」です。

線速度とは、レコード盤上の一点が単位時間あたりに移動する距離のことです。レコードは中心軸を中心に一定の角速度で回転していますが、外周部と内周部では円の半径が異なるため、実際に溝が移動する速度は変化します。

具体的な数値で説明しますと、LPレコードの外周部では線速度が約50センチメートル毎秒、内周部では約25センチメートル毎秒となります。つまり、内側では外側の約半分の速度で溝が針の下を通過していることになります。

この現象は、当店でレコードをかけている際にも実感できます。A面の1曲目とA面の最後の楽曲を比較すると、明らかに音の印象が変わることがあります。特に高音域の繊細な表現や、楽器の分離感に違いが現れます。

線速度が遅くなることで、同じ時間の音楽を記録するために必要な溝の長さが短くなります。これは、音の情報密度が高くなることを意味し、結果として音質に影響を与えるのです。

実際に当店のお客様の中には、「A面の1曲目だけ異様に音が良く聞こえる」とおっしゃる方もいらっしゃいます。これはまさに線速度の違いによる現象なのです。

周波数特性の変化メカニズム

線速度の変化は、特に高周波数成分の再生に大きな影響を与えます。

音の高周波数成分を正確に再生するためには、溝の形状をより細かく、より正確に刻む必要があります。しかし、線速度が遅い内周部では、高周波数の波形を表現するための物理的なスペースが制限されてしまいます。

例えば、10,000ヘルツの高音を考えてみましょう。外周部では十分な長さの溝で滑らかな波形を刻むことができますが、内周部では同じ波形をより短い溝で表現しなければなりません。これにより、高音域の情報が圧縮され、結果として音がこもったように聞こえるのです。

当店でジャズのレコードをよくかけますが、シンバルの輝きやピアノの高音部の透明感が、楽曲の進行とともに変化していくのを感じることがあります。これは決してレコードの品質の問題ではなく、アナログレコードの物理的特性による自然な現象なのです。

また、この現象はステレオ録音においてより顕著に現れます。ステレオ録音では左右のチャンネルの情報を溝の横方向と縦方向の動きで表現するため、モノラル録音よりも複雑な溝の形状が必要になります。内周部では、この複雑な情報を限られたスペースで表現しなければならないため、音質への影響がより大きくなります。

カッティングエンジニアの工夫と技術

レコード制作の現場では、この物理的制約を克服するため、カッティングエンジニアと呼ばれる専門技術者が様々な工夫を凝らしています。

カッティングエンジニアは、楽曲をレコードに刻む際に、内周部での音質劣化を最小限に抑えるための技術を駆使します。例えば、楽曲の音量や周波数特性を部分的に調整し、内周部でも可能な限り高音質を維持できるよう配慮しています。

当店のコレクションの中でも、特に1970年代以降のレコードでは、こうした技術の進歩を感じることができます。同じ楽曲でも、初回プレス盤と後年のリマスター盤では、内周部の音質に明らかな違いがあることが多いのです。

また、重要な楽曲を外周部に配置するという工夫も行われています。アルバムのオープニング曲やメイン楽曲を意図的にA面やB面の最初に持ってくることで、最良の音質で聴けるよう配慮されているのです。

さらに、楽曲間の無音部分の長さを調整することで、溝のピッチ(間隔)をコントロールし、音質の均一性を保つという技術もあります。これにより、レコード全体を通して一定レベルの音質を維持することが可能になります。

当店でレコードを選ぶ際には、こうしたカッティングエンジニアの工夫も考慮に入れています。特に著名なエンジニアが手がけた作品は、内周部でも驚くほど高い音質を保持していることが多く、お客様にも自信を持ってお勧めできます。

ジャンル別の音質変化パターン

音楽のジャンルによって、内周部での音質変化の現れ方は異なります。当店で様々なジャンルのレコードをかけている中で気づいたパターンをご紹介しましょう。

クラシック音楽では、オーケストラの豊かな音色と広いダイナミックレンジのため、内周部での変化が比較的目立ちにくい傾向があります。特に弦楽器の豊かな中音域が主体となる楽曲では、内周部でも十分な表現力を保持しています。

一方、ジャズ、特にビッグバンドジャズでは、トランペットやサックスの高音域、シンバルの輝きが内周部で変化しやすく、演奏の臨場感に影響を与えることがあります。当店でマイルス・デイビスの「Kind of Blue」をかける際も、A面最後の「Blue in Green」では、冒頭の楽曲とは異なる音の質感を感じることができます。

ロックやポップスでは、エレキギターの歪みやドラムのアタック感が内周部で変化します。特にハードロック系の楽曲では、ギターソロの鋭さや迫力が内周部で若干和らぐことがあります。

しかし、これらの変化は必ずしも音質の劣化を意味するわけではありません。時として、内周部の特性が楽曲に独特の温かみや親しみやすさを与えることもあります。当店のお客様の中にも、「レコードの最後の方の柔らかい音が好き」という方がいらっしゃいます。

現代の技術革新と対策

現代のレコード制作技術では、内周部の音質劣化を最小限に抑える様々な革新が生まれています。

デジタルマスタリング技術の発達により、内周部での再生を想定した最適化処理が可能になりました。コンピューターを使って楽曲の周波数特性を詳細に分析し、内周部での再生に最適な状態に調整することができるのです。

また、カッティングマシンの精度向上により、より細かな溝を正確に刻むことが可能になっています。これにより、限られたスペースでもより多くの音楽情報を記録できるようになりました。

当店で取り扱っている最近のリイシュー盤の中には、オリジナル盤では内周部で聞き取りにくかった楽器の音が、現代の技術により明瞭に聞こえるものもあります。技術の進歩により、アナログレコードの可能性がさらに広がっていることを実感します。

さらに、特殊な樹脂材料の開発により、溝の摩耗を抑制し、長期間にわたって高音質を維持できるレコードも登場しています。これにより、内周部でも初回再生時の音質を長く保つことが可能になっています。

ライブ喫茶ELANでの実例と体験

当店では、お客様にアナログレコードの魅力を最大限に感じていただくため、様々な工夫を行っています。

まず、レコードプレーヤーのセッティングにこだわっています。針圧やアンチスケーティング、カートリッジの調整を定期的に行い、外周部から内周部まで一貫して高品質な再生を実現しています。特に内周部での音質変化を最小限に抑えるため、高精度なトーンアームとカートリッジを使用しています。

また、楽曲の選択にも配慮しています。内周部に配置された楽曲でも、その特性を活かした魅力的な音楽体験をお客様に提供するよう心がけています。例えば、内周部の温かみのある音質が楽曲の雰囲気を高める場合は、あえてその特性を楽しんでいただくこともあります。

お客様からは「家で聞くのと全然違う」「レコードの奥深さを初めて知った」といったお声をいただくことがあります。これは、適切な機器と環境、そして楽曲に対する理解があってこそ実現できる体験だと自負しています。

当店では、お客様のリクエストにも積極的にお応えしています。特定の楽曲の音質について詳しく知りたい場合は、外周部と内周部での聞き比べも行っています。こうした体験を通じて、アナログレコードの物理的特性を実際に感じていただくことができます。

まとめと今後の展望

レコードの内側ほど音がこもる現象は、アナログレコードの物理的構造に由来する自然な特性です。線速度の変化により、特に高周波数成分の再生において制約が生じ、結果として音質の変化が現れます。

しかし、この現象は決してアナログレコードの欠点ではありません。むしろ、物理媒体ならではの特性として、音楽に独特の表情と深みを与えています。カッティングエンジニアの技術と工夫により、この制約を逆に活用した表現も生まれています。

現代の技術革新により、内周部での音質劣化は大幅に改善されていますが、アナログレコードの本質的な魅力は変わりません。デジタル技術が発達した現在でも、多くの音楽愛好家がアナログレコードを愛し続けているのは、こうした物理的特性が生み出す独特の音楽体験にあるのです。

ライブ喫茶ELANでは、これからもアナログレコードの魅力を多くの方に伝えていきたいと考えています。技術的な側面だけでなく、音楽そのものの感動を大切にしながら、お客様に最高の音楽体験を提供してまいります。

アナログレコードには、まだまだ発見すべき魅力が隠されています。ぜひ当店にお越しいただき、レコードの奥深い世界を一緒に探求しましょう。コーヒーを飲みながら、ゆったりとした時間の中で、音楽の新しい一面を発見していただければ幸いです。

皆様のご来店を心よりお待ちしております。

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Cafe & Music ELAN 

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