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2025年09月24日

カフェで流す音楽がコーヒーの味を変える?心理学的研究から見える音楽とコーヒーの深い関係

はじめに

名古屋の隠れ家的存在として多くのお客様に愛されているライブ喫茶ELANです。当店では往年の名曲を収めたレコードが所狭しと並び、広く落ち着いた雰囲気の店内で音楽とコーヒーを心ゆくまでお楽しみいただけます。

長年この仕事をしていると、お客様から「今日のコーヒー、いつもより美味しく感じる」「この音楽を聴きながらだと、コーヒーの味わいが違う」といったお声をいただくことがあります。これは単なる気のせいなのでしょうか。実は近年の心理学研究では、音楽が私たちの味覚に与える影響について興味深い発見が数多く報告されています。

今回は、当店が大切にしている「音楽とコーヒーの融合」について、科学的な視点から探ってみたいと思います。なぜ音楽がコーヒーの味を変えるのか、そしてどのような音楽がコーヒータイムを特別なものにするのかを、心理学的研究をもとにご紹介いたします。

音楽が味覚に与える驚くべき影響

五感の相互作用という不思議な現象

私たちが「味」として感じているものは、実は舌で感じる味覚だけではありません。香り、温度、食感、そして音や音楽といった聴覚情報も、総合的な「美味しさ」の体験に深く関わっているのです。この現象を「共感覚的体験」と呼びます。

共感覚的体験とは、一つの感覚刺激が他の感覚を同時に引き起こす現象のことです。例えば、高い音を聞くと甘みを強く感じたり、低い音を聞くと苦みを感じやすくなったりします。これは決して特殊な能力ではなく、多くの人が無意識のうちに体験している現象なのです。

当店でも、お客様がジャズのスタンダードナンバーを聴きながらコーヒーを飲まれる際の表情と、クラシック音楽を聴きながら飲まれる際の表情が明らかに違うことに気づいています。音楽が変わることで、同じコーヒーでも異なる味わい体験をされているのでしょう。

オックスフォード大学の画期的研究

イギリスのオックスフォード大学で行われた研究では、参加者にヘッドフォンで異なる音楽を聞かせながらコーヒーを飲んでもらい、その味の感じ方を調査しました。その結果、高音が多い音楽を聞いた参加者は甘みを強く感じ、低音が多い音楽を聞いた参加者は苦みを強く感じるという明確な傾向が見られました。

この研究結果は、当店での日々の観察とも一致しています。軽やかなボサノヴァを流している日には、お客様から「今日のコーヒーはまろやかですね」というお声をいただくことが多く、一方でブルースやジャズの低音が効いた楽曲を流している日には「深いコクを感じる」といった感想をお聞きすることが多いのです。

当店での音楽選びの哲学

時間帯に合わせた音楽プログラム

ライブ喫茶ELANでは、一日の時間の流れに合わせて音楽を選曲しています。朝の時間帯には、お客様の一日の始まりにふさわしい軽やかで希望に満ちた楽曲を選びます。具体的には、ビル・エヴァンスの繊細なピアノタッチやスタン・ゲッツのテナーサックスなど、優しく心地よい響きの楽曲を中心に構成しています。

昼の時間帯には、ランチタイムの賑やかさに合わせて、少し活気のある楽曲を選択します。デイヴ・ブルーベックの「Take Five」のような親しみやすいジャズナンバーや、アントニオ・カルロス・ジョビンのボサノヴァなど、会話を邪魔しない程度のリズム感のある音楽でお客様をお迎えしています。

夕方から夜にかけては、一日の疲れを癒やすような落ち着いた楽曲を選んでいます。マイルス・デイヴィスの「Kind of Blue」に収録されているような、深みのあるモードジャズや、キース・ジャレットのソロピアノなど、内省的で心に染み入る音楽をお楽しみいただいています。

レコードにこだわる理由

当店がレコードにこだわるのには、音質の違いという理由もありますが、それ以上に「儀式的な体験」を大切にしているからです。レコードを手に取り、針を落とし、音楽が流れ始める一連の動作には、デジタル音源では得られない特別感があります。

お客様の中には、私たちがレコードを選ぶ様子をじっと見つめ、「今日はどんな音楽が聞けるのだろう」と期待を膨らませる方もいらっしゃいます。この期待感もまた、コーヒーの味わい体験を豊かにする重要な要素の一つだと考えています。

科学が証明する音楽とコーヒーの相性

甘味と高音の関係

前述のオックスフォード大学の研究以外にも、多くの研究機関で音楽と味覚の関係についての研究が進められています。特に注目すべきは、甘味と高音の相関関係です。

ピアノの高音部や、ヴァイオリンの澄んだ音色を聞きながらコーヒーを飲むと、砂糖を入れていないブラックコーヒーでも甘みを感じやすくなるという現象が確認されています。これは、高周波の音が脳内で甘味受容体の活動を促進するためと考えられています。

当店では、この現象を実際に体験していただけるよう、特に午後のひとときにはピアノトリオの楽曲を多く流すようにしています。お客様からも「砂糖を入れなくても、なんだか甘く感じる」というお声をいただくことがあり、科学的研究の正確性を実感しています。

苦味と低音の不思議な関係

一方で、低音が多い音楽は苦味を強調する効果があることも分かっています。ベースラインが効いたジャズや、チェロの深い音色は、コーヒーの苦味成分であるカフェインやクロロゲン酸の味をより鮮明に感じさせます。

これは一見すると好ましくない現象のように思えるかもしれませんが、実は深煎りコーヒーの複雑な味わいを楽しむ上では非常に有効な効果です。特に当店でお出ししているエスプレッソベースのドリンクには、低音が効いた楽曲が絶妙にマッチします。

実際に、夜の時間帯にチェット・ベイカーの憂いを帯びたトランペットやレイ・ブラウンの重厚なベースラインが響く中でカフェオレをお楽しみいただくと、お客様の表情が一段と深い満足感に包まれるのを目にします。

テンポが与える影響

音楽のテンポもまた、味覚体験に大きな影響を与えます。テンポの速い音楽は心拍数を上げ、それに伴って代謝も活発になるため、コーヒーの香り成分をより敏感に感じ取ることができるようになります。

逆に、ゆったりとしたテンポの音楽は副交感神経を優位にし、リラックス状態を作り出します。この状態では、コーヒーの微細な味わいの違いをより繊細に感じ取ることができるようになります。

当店では、お客様の状況やご希望に応じて、意識的にテンポの異なる楽曲を使い分けています。急いでいるビジネスマンの方には少し軽快な楽曲を、ゆっくりと時間を過ごしたいお客様には穏やかな楽曲をお聞かせするよう心がけています。

実際のお客様の声から見える音楽効果

常連のお客様との対話から

当店には毎日のようにお越しいただく常連のお客様が多数いらっしゃいます。その中の一人、70代の男性のお客様は、「同じコーヒー豆でも、音楽によって全く違った飲み物のように感じる」とおっしゃいます。

この方は特にクラシック音楽がお好きで、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」が流れる日には「今日のコーヒーは特に香り高い」と感想をお聞かせくださいます。実際には同じ豆を使用しているにも関わらず、音楽の力でまったく異なる味覚体験をされているのです。

また、30代の女性のお客様からは、「ボサノヴァが流れている日は、コーヒーがとてもまろやかに感じられて、心も軽やかになる」というお声をいただいています。この方は仕事のストレスを抱えることが多いそうですが、当店でのひとときが癒やしの時間になっているとのことで、私たちとしても大変嬉しく思っています。

初めてご来店されるお客様の反応

初めて当店にお越しになるお客様の中にも、音楽とコーヒーの相乗効果を敏感に感じ取る方が多くいらっしゃいます。

先日も、「音楽でコーヒーの味が変わるなんて信じられない」とおっしゃっていたお客様が、実際に異なる楽曲を聞きながらコーヒーを飲み比べた結果、「本当に味が違って感じられる」と驚かれていました。このような体験を通じて、多くのお客様に音楽とコーヒーの深い関係を実感していただいています。

音楽ジャンル別コーヒーペアリング

ジャズとコーヒーの黄金の組み合わせ

ジャズほどコーヒーと相性の良い音楽ジャンルは他にないでしょう。特にビ・バップ期の楽曲は、コーヒーの複雑な味わいと見事に調和します。

チャーリー・パーカーのアルトサックスの鋭い音色は、エスプレッソの力強い苦味を際立たせ、ディジー・ガレスピーのトランペットの華やかさは、カプチーノのミルクの甘みを引き立てます。これらの楽曲を聴きながらコーヒーを飲むと、まるで音楽とコーヒーが対話しているかのような感覚を味わうことができます。

また、マイルス・デイヴィスのクールジャズは、アイスコーヒーとの相性が抜群です。特に夏の午後、「Birth of the Cool」を聞きながら飲むアイスコーヒーは格別の味わいがあります。

クラシック音楽が作り出す上品な味わい

クラシック音楽とコーヒーの組み合わせは、非常に上品で洗練された体験を生み出します。特に室内楽の繊細な音色は、コーヒーの香りの微細な変化を感じ取りやすくします。

モーツァルトのピアノソナタが流れる中で飲むコーヒーは、驚くほど軽やかで華やかな味わいに感じられます。一方、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲のような深みのある楽曲は、深煎りコーヒーの重厚な味わいと見事に調和します。

当店では、クラシック音楽をお好みのお客様のために、定期的に「クラシック・コーヒータイム」を設けており、普段はジャズ中心の当店が、まったく異なる雰囲気に変わります。

ボサノヴァの魔法的効果

ブラジル生まれのボサノヴァは、コーヒーとの相性においても特別な存在です。軽やかなギターの調べと優しい歌声は、コーヒーの酸味を程よく和らげ、全体の味わいをまろやかにする効果があります。

アントニオ・カルロス・ジョビンの「The Girl from Ipanema」やスタン・ゲッツとの共演作品は、午後のひとときのコーヒータイムを特別なものにしてくれます。南米の陽だまりのような温かさが、コーヒーの温かさと重なり合い、心も体も温かい気持ちにしてくれます。

まとめ:音楽とコーヒーが奏でる至福のハーモニー

音楽がコーヒーの味を変えるという現象は、もはや単なる気のせいではなく、科学的に証明された事実です。高音は甘味を、低音は苦味を強調し、テンポは私たちの生理的状態に影響を与え、それがコーヒーの味覚体験を大きく左右します。

名古屋のライブ喫茶ELANでは、これらの科学的知見を踏まえながらも、何よりもお客様一人一人に心地よい時間をお過ごしいただくことを最優先に考えています。往年の名曲を収めたレコードの数々は、単なる BGM ではなく、コーヒーという飲み物を通じてお客様により豊かな体験をお届けするための重要なパートナーなのです。

音楽とコーヒー、この二つの要素が融合することで生まれる特別な時間を、ぜひ当店でご体験ください。広く落ち着いた雰囲気の店内で、ゆったりとしたくつろぎの時間をお過ごしいただければと思います。

皆様のお越しを、心よりお待ちしております。

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Cafe & Music ELAN 

やわらかな音と、香り高い一杯を。

名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
 営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分

ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います

あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております