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2025年12月29日
ジャズボーカルの「スキャット唱法」とは?──言葉を超えて”音で語る”歌の魅力
名古屋・熱田区のライブ喫茶ELANでは、日々さまざまなミュージシャンが音楽の魅力を届けています。その中でも、お客様からよく質問されるのが「スキャット唱法って何ですか?」というもの。ジャズを語る上で欠かせないこの「スキャット」は、まさに”声を楽器のように使う”表現です。本記事では、そのスキャット唱法の基本から、歴史、練習法、そしてELANで実際に聴けるリアルな体験まで、丁寧にご紹介いたします。
言葉ではなく”音”で会話するスキャット唱法とは?
スキャット唱法とは、歌詞の代わりに「ドゥバドゥバ」「バップ」「シュビドゥワ」などの意味のない音でメロディーを歌うジャズ独特のボーカル技法です。一見遊びのように聞こえるかもしれませんが、実は非常に奥深い音楽的センスが問われる表現方法です。
例えば、トランペットやサックスがソロ演奏をするように、スキャットも即興的な”アドリブ”が基本となっています。歌い手は伴奏を聴きながら、その場でメロディやリズムを瞬間的に組み立てていきます。まさに”声でジャズを演奏する”感覚なのです。スキャットには決まった楽譜がなく、歌い手の感性と技術がそのまま音になって表れます。同じ曲を同じ歌手が歌っても、毎回違うスキャットが生まれるのは、この即興性があるからこそです。
また、スキャットでは「シラブル」と呼ばれる音の単位が重要になります。「ドゥ」「バ」「ダ」「シュ」などの音をどう組み合わせるかで、リズムの切れ味や音色の印象が大きく変わります。たとえば「ドゥバドゥバ」と滑らかに歌えばスウィング感が出ますし、「バップバップ」と鋭く刻めばビバップの緊張感が生まれます。このシラブルの選び方ひとつで、歌い手の個性がはっきりと表れるのです。
ELANの店主もよく言います。「スキャットは、歌詞で語るんじゃなくて”音”で語るんです。言葉がなくても感情が伝わる、それがジャズの真髄ですね。」
スキャットの始まり──名シンガーたちが拓いた表現の道
スキャットが広く知られるようになったきっかけは、ジャズ界の伝説的歌手ルイ・アームストロングにあります。彼はある録音の際、歌詞を忘れてしまったために即興で意味のない音を歌ったと言われています。それが偶然にも新しい表現として認められ、「スキャット唱法」として定着したのです。1926年に録音された「Heebie Jeebies」がその代表曲とされており、この曲をきっかけにスキャットはジャズボーカルの重要な技法として広まっていきました。
ルイ・アームストロングのスキャットは、彼のしゃがれた声と独特のリズム感が相まって、まるでトランペットがそのまま人間の声になったかのような印象を与えます。彼は自身もトランペット奏者であったため、管楽器のフレージングを声で再現するという発想が自然に生まれたのでしょう。この「楽器のように歌う」という考え方は、後のスキャット歌手たちに大きな影響を与えました。
その後、エラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーン、メル・トーメなど、数々の巨匠ボーカリストがスキャットを磨き上げました。特にエラ・フィッツジェラルドのスキャットは、まるでサックスのように流麗で、ジャズボーカルを新たな芸術に引き上げたと言われています。彼女は驚異的な音域と正確な音程を持ち、複雑なビバップのフレーズを声だけで完璧に再現できました。1960年のベルリン公演では、「Mack the Knife」を歌っている途中で歌詞を忘れてしまいましたが、そこから素晴らしいスキャットでアドリブを展開し、この録音は歴史的名演として語り継がれています。
サラ・ヴォーンのスキャットもまた独自の魅力を持っています。彼女は「Divine One(神聖なる存在)」と呼ばれるほどの美声の持ち主で、そのスキャットは深みのある声と繊細なビブラートが特徴でした。オペラ的な発声とジャズのスウィング感を融合させた彼女のスタイルは、スキャット唱法の可能性を大きく広げました。メル・トーメは「Velvet Fog(ベルベットの霧)」という愛称で知られ、柔らかく滑らかな声でスキャットを歌い、聴く者を優しく包み込むような独特の世界観を作り出しました。
ELANのレコード棚にも、そんな名唱を収めたアルバムがずらりと並びます。夜の落ち着いた時間に、エラのスキャットが鳴り響くと、まるで彼女がその場にいるような錯覚さえ覚えるほどです。その瞬間、音と自分だけの時間が静かに流れていきます。
なぜスキャットは心を打つのか──”言葉じゃない感情”を伝える力
人は音楽を聴くとき、必ずしも「意味のある言葉」を求めているわけではありません。スキャットが感動を生むのは、意味を超えた”声の表情”にあります。
声の高低差、息遣い、リズムの揺らぎ——それぞれが心の微妙な動きを映し出します。たとえば、同じ「ドゥバ」の一音でも、やさしく歌えば安心を、強く刻めば情熱を感じさせるのです。スキャットを聴いているとき、私たちの脳は言葉の意味を処理する必要がないため、純粋に音そのものに集中できます。これは母国語ではない外国語の歌を聴くときの感覚に似ているかもしれません。意味がわからなくても、声のトーンや抑揚から感情を読み取ることができるのです。
音楽心理学の観点から見ると、人間の脳は言語を介さない音声コミュニケーションに対して非常に敏感に反応するとされています。赤ちゃんが言葉を覚える前から親の声のトーンを理解できるように、私たちは本能的に音の表情から感情を読み取る能力を持っています。スキャットはこの原始的なコミュニケーション能力に直接訴えかけるため、言葉の壁を超えて世界中の人々の心に響くのでしょう。
また、スキャットには「予測できない面白さ」もあります。歌詞がある曲では、ある程度次に何が来るか予想できますが、スキャットは完全な即興であるため、聴く者も歌い手と一緒にスリリングな音楽の旅を体験することになります。次にどんなフレーズが飛び出すかわからないワクワク感は、ジャズライブならではの醍醐味です。
ある常連のお客様がこんなことを話していました。「エラのスキャットを聴いてると、なんだか悩みが小さく思えるんですよね。意味はわからないのに、不思議と心が軽くなる。」
これは音楽が”言葉”の壁を超える瞬間です。そこにこそ、ジャズの深さと温かさがあるのだと思います。スキャットは国境や言語の違いを超えて、人と人をつなぐ普遍的な音楽言語なのかもしれません。
スキャットを楽しむための3つの聴き方
ELANでは、初心者の方にもスキャットの楽しみ方を伝えています。ただ「なんとなく聴く」より少し意識を変えるだけで、新しい発見があるからです。
1. リズムに注目する
スキャットはリズムの妙が命です。ドラムやベースとの呼吸を感じながら聴くと、一体感が倍増します。特にスウィングのリズムでは、拍の「裏」にアクセントが来ることが多く、この独特のグルーヴを感じ取れるようになると、スキャットの醍醐味がぐっと深まります。ボーカリストがどのタイミングで音を置いているか、少しだけ意識してみてください。ほんの少し遅らせて歌う「レイドバック」という技法や、逆に前のめりに歌う瞬間など、リズムの微妙な揺れが心地よいグルーヴを生み出しているのがわかるはずです。
2. 楽器と”会話”しているつもりで聴く
ピアノやサックスのソロに呼応するようにスキャットが返している場面では、声と楽器が言葉のない会話をしています。ジャズでは「コール・アンド・レスポンス」と呼ばれるやり取りが頻繁に行われ、ピアノが問いかけるフレーズを弾けば、ボーカルがスキャットで答えるといった掛け合いが展開されます。この音楽的な対話を意識して聴くと、ステージ上で繰り広げられるコミュニケーションの面白さが見えてきます。時には予想外のフレーズで返すことで笑いが生まれたり、絶妙なタイミングでユニゾンが決まって感動が生まれたりと、生きた会話のようなドラマがそこにはあります。
3. 声質の違いを楽しむ
男性ボーカルは渋く力強く、女性ボーカルは軽やかにスウィングすることが多いですが、それぞれの歌手によって声そのものが一つの”楽器”として個性を放っています。低音域が豊かな歌手はベースラインに近いフレーズを歌えますし、高音が得意な歌手はフルートやクラリネットのような軽やかなラインを描きます。また、声の倍音成分やビブラートの深さなども歌手によって異なり、これらが組み合わさって唯一無二の音色が生まれるのです。同じ曲を異なる歌手が歌っているバージョンを聴き比べてみると、スキャットにおける個性の違いがよくわかります。
ELANのライブでは、こうしたポイントを踏まえて聴くと、まるでジャズセッションの”内部”を体験しているような感覚になれるでしょう。
スキャットはどう練習する?──リズム感と自由な発想が鍵
「自分でもスキャットをやってみたい」と言われるお客様も多くいらっしゃいます。実は誰でも始められるのがスキャットの魅力でもあります。
基本となるのは、リズムと音階の感覚です。楽器がなくても、鼻歌を歌うように「ドゥバ」「シュビドゥ」など声に出してみるだけで大丈夫です。最初は好きな曲を聴きながら、真似をするところから始めてみましょう。
スキャット練習のポイントとしては、まずリズムを感じながら一定のテンポを保つことが大切です。メトロノームやドラムの音源を使って、安定したビートの上で声を出す練習をしてみてください。次に、少しずつフレーズを変えながら”遊ぶ”ことを意識します。最初は短いフレーズを繰り返し、慣れてきたら少しずつ変化を加えていきましょう。そして何より、音を出すのではなく”感じる”ことを意識することが重要です。頭で考えすぎると即興の流れが止まってしまうため、体が自然に動くまで繰り返し練習することが上達への近道です。
具体的な練習方法としては、まずお気に入りのジャズボーカルの録音を聴いて、スキャットの部分を何度も聴き返すことから始めます。最初は完全にコピーするつもりで真似をし、フレーズを体に染み込ませていきます。次に、同じ曲のカラオケ音源や伴奏だけの音源を探して、自分でスキャットを歌ってみます。最初は短いフレーズから始めて、徐々に長いソロに挑戦していくとよいでしょう。録音して聴き返すことで、自分の癖や改善点が見えてきます。
また、ジャズの基本的なスケールやコード進行を学ぶことも助けになります。理論を知っていると、伴奏のコードに合った音を選びやすくなり、より音楽的なスキャットが可能になります。ただし、理論にとらわれすぎると自由な発想が失われることもあるため、バランスが大切です。
ELANでも、時折ボーカルセッションのワークショップを開催しています。店主はこう語ります。「上手く歌うことより、音と心を自由に行き来することのほうが大切なんです。スキャットは”思考を手放す練習”でもあるんですよ。」
コーヒーを片手に、軽くリズムを取りながら声を出してみれば、それだけで音楽の世界がぐっと近づいてきます。
ELANで聴ける”生のスキャット”──言葉を超えた瞬間に立ち会う
ライブ喫茶ELANでは、ジャズボーカルのライブを定期的に開催しています。その中には、スキャットを中心にしたセッションナイトもあります。ピアノ、ベース、ドラム——そしてボーカル。音と音が絡み合い、まるで会話を交わすように進んでいく時間。店内のJBLスピーカー model4344から響く音は、生演奏そのままの臨場感を再現します。
ELANの音響システムは、ジャズの繊細なニュアンスを余すところなく伝えるために細部までこだわっています。特にボーカルの息遣いや、ピアノの倍音、ベースの深い低音域まで、バランスよく再生できる環境を整えています。レコードをかけるときも、ライブを行うときも、「音楽が生きている」と感じられる空間であることを大切にしています。
印象的だったのは、ある女性ボーカリストのステージです。曲の途中でマイクを少し離し、会場全体に響くようにスキャットを歌い上げました。歌詞もメロディも決まっていないその瞬間に、お客様全員が息をのんだのがわかりました。音が心に直接伝わった、まさに音楽の魔法のような一幕でした。彼女は伴奏陣とアイコンタクトを取りながら、時に激しく、時に繊細に、声で物語を紡いでいきました。演奏が終わった後の静寂、そして沸き起こる拍手は、その場にいた全員が同じ感動を共有していたことの証でした。
生演奏でしか味わえない緊張感と一体感は、録音では決して再現できないものです。ミュージシャン同士が互いの音を聴きながら瞬時に反応し、その場限りの音楽を創り上げていく過程を目の当たりにすると、ジャズという音楽の本質が見えてきます。スキャットはその中でも特に即興性が高く、ボーカリストの技量と感性がダイレクトに伝わる場面です。
そんな体験ができるのも、ELANならではです。おいしいコーヒーとともに、心に残る「音の会話」をぜひ楽しんでください。
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Cafe & Music ELAN
やわらかな音と、香り高い一杯を。
名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分
ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います
あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております
