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2025年11月09日
トランペットの”ミュート”で音色はどう変わる?ジャズ喫茶が語る奥深い世界
名古屋のライブ喫茶ELANでは、毎日多くのジャズやブルースのレコードが店内に響き渡ります。その中でも、トランペットの音色は特に印象的です。ある日、常連のお客様から「このトランペット、さっきと音が違いますね」と言われたことがありました。そう、それはミュートを使った演奏だったのです。
トランペットのミュートは、楽器の音色を劇的に変化させる魔法のような装置です。当店のレコードコレクションの中にも、マイルス・デイヴィスやチェット・ベイカーなど、ミュートを巧みに使いこなす名演が数多く収録されています。
今回は、長年ジャズを聴き続けてきた当店の視点から、トランペットのミュートがもたらす音色の変化について、初めての方にも分かりやすくご紹介します。コーヒーを片手に、ゆっくりとお読みいただければ幸いです。
ミュートとは何か?基礎知識を知ろう
トランペットのミュートとは、楽器のベル(音が出る部分)に装着する器具のことです。簡単に言えば、トランペットに「蓋」をするようなイメージですね。完全に塞ぐわけではありませんが、音の出口を部分的に遮ることで、音色や音量を変化させます。
当店でレコードをかけていると、よく「今の曲、トランペットの音がこもって聞こえますね」とか「なんだか鼻にかかったような音ですね」といった感想をいただきます。それがまさにミュートの効果なのです。
ミュートの歴史は意外と古く、20世紀初頭のジャズの黎明期から使われていました。当初は音量を下げるために使われていましたが、やがてその独特な音色が表現手段として注目されるようになりました。特にジャズの世界では、ミュートは単なる道具ではなく、演奏家の個性を表現する重要な「楽器」の一部となったのです。
ミュートには様々な種類があります。材質も金属製、木製、ファイバー製など多岐にわたり、それぞれが異なる音色を生み出します。当店のマスターは、レコードを聴きながら「これはストレートミュートだね」「今のはカップミュートかな」と、音だけで判別できるようになりました。それほど、ミュートによる音色の違いは明確なのです。
ミュートが生み出す音色の変化
ミュートを装着すると、トランペットの音色はどのように変わるのでしょうか。大きく分けて三つの変化が起こります。
まず、音量が小さくなります。これは物理的に音の出口が狭められるためです。当店のような落ち着いた空間で聴くには、ちょうど良い音量になることも多いですね。深夜のしっとりとした時間帯には、ミュートを使った繊細な演奏が店内の雰囲気によく合います。
次に、音色が柔らかく、または鼻にかかったような独特の響きになります。生のトランペットが持つ明るく華やかな音色とは対照的に、ミュートを使った音は内省的で、どこか物憂げな印象を与えます。まるで、心の奥底から絞り出すような、感情的な表現が可能になるのです。
そして三つ目が、倍音の変化です。倍音とは、基本となる音に重なって聞こえる高次の音のことです。ミュートを使うと、特定の倍音が強調されたり、逆に抑えられたりします。この倍音の変化が、ミュート特有の「色付き」された音色を生み出すのです。
当店でよく流すマイルス・デイヴィスの「Sketches of Spain」では、ミュートを使った演奏が随所に登場します。あるお客様は「まるでトランペットが歌っているみたい」と表現されました。まさにその通りで、ミュートは楽器を人間の声に近づける効果もあるのです。
代表的なミュートの種類と特徴
当店のレコードコレクションを聴いていると、様々なタイプのミュートの音色に出会います。ここでは代表的なものをご紹介しましょう。
ストレートミュートは、最もポピュラーなタイプです。円錐形をしていて、ベルの中に差し込んで使います。音色は比較的明るく、鋭い印象になります。ジャズのビッグバンドでよく使われ、セクション全体の音を引き締める効果があります。当店でデューク・エリントン楽団のレコードをかけると、この音色がよく聞こえてきます。
カップミュートは、ストレートミュートの先端にお椀型のカップが付いたものです。音色は柔らかく、丸みを帯びています。ジャズのバラードでよく使われ、ロマンティックな雰囲気を醸し出します。常連のお客様の中には、この音色が一番好きだという方も多いですね。
プランジャーミュートは、トイレの詰まりを直す道具に似た形をしています。実際、初期のジャズでは本物のプランジャーが使われていました。ベルに当てたり離したりすることで、「ワウワウ」という独特の効果を生み出します。デューク・エリントン楽団の「Mood Indigo」などで聴くことができます。
ハーマンミュートは、比較的新しいタイプで、金属製の共鳴管を持っています。音色は明るく、よく通る音になります。ビッグバンドのソリ(複数の楽器が同じメロディーを演奏すること)でよく使われます。
当店では、これらのミュートを使った様々な演奏を聴き比べることができます。同じ曲でも、ミュートの種類によって全く違った印象になるのが面白いところです。
ジャズ史に残るミュートの名演
当店のレコード棚には、ミュートを駆使した名演が数多く収められています。その中から、特に印象的なものをいくつかご紹介しましょう。
まず外せないのが、マイルス・デイヴィスです。彼はハーマンミュートを愛用し、その繊細で内省的な音色で多くの名演を残しました。「Kind of Blue」の「So What」では、ミュート特有の柔らかな音色が、静謐な雰囲気を作り出しています。深夜の当店で、この曲をかけると、店内が一気にしっとりとした空気に包まれます。
チェット・ベイカーもミュートの使い手として知られています。彼の場合は、自身のボーカルに近い音色をトランペットで表現するために、ミュートを効果的に使いました。楽器と声の境界が曖昧になるような、不思議な一体感が生まれています。
クリフォード・ブラウンは、力強い演奏で知られていますが、バラードではミュートを使った繊細な表現も見せました。彼の「I’ll Remember April」は、ミュートを使った演奏の教科書とも言える名演です。
デューク・エリントン楽団では、トランペット奏者のバッバー・マイリーが、プランジャーミュートを使った独特の奏法を確立しました。「East St. Louis Toodle-Oo」などで聴ける、人間の声のような表現は、今でも多くの演奏家に影響を与えています。
これらのレコードは、当店でもリクエストの多い人気曲です。コーヒーを飲みながら、じっくりと聴き込んでいただきたい名演ばかりです。
ミュートが生み出す表現の可能性
ミュートは単に音色を変えるだけの道具ではありません。演奏家にとっては、感情表現の幅を広げる重要な手段なのです。
当店のレコードコレクションを聴いていると、ミュートの使い方一つで、曲の印象が大きく変わることに気づきます。例えば、明るく華やかな曲でも、ミュートを使うことで、どこか哀愁を帯びた雰囲気になります。逆に、静かなバラードでも、ミュートの種類によっては、緊張感のある演奏になることもあります。
ミュートの効果は、音楽的な文脈によっても変わります。ビッグバンドの中では、セクション全体の音をまとめる役割を果たします。一方、ソロ演奏では、演奏家の個性や感情を際立たせる効果があります。
また、ミュートを使うタイミングも重要です。曲の始めから使う場合もあれば、途中で装着して音色の変化を演出することもあります。当店でよくかける「Round Midnight」では、多くの演奏家がミュートを効果的に使い分けています。
ミュートの表現力は、ジャズに限りません。クラシック音楽でも、現代音楽でも、ミュートは重要な役割を果たしています。当店では主にジャズのレコードを扱っていますが、時折クラシックの名演もかけることがあります。そこでもミュートの効果を実感することができます。
当店で体験できるミュートの世界
ライブ喫茶ELANでは、ミュートを使った様々な演奏を、高音質のオーディオシステムでお楽しみいただけます。往年の名盤から、あまり知られていない隠れた名演まで、幅広いコレクションを揃えています。
広々とした店内は、音楽を聴くために設計された空間です。適度に吸音処理された壁面と、計算された音響設計により、ミュートの繊細な音色変化も、クリアに聴き取ることができます。
当店のマスターは、長年の経験から、お客様の好みに合わせたレコード選びを得意としています。「ミュートの音色が聴きたい」とリクエストいただければ、その日の気分や時間帯に合わせて、最適な一枚をお選びします。
コーヒーは、音楽と同じくらいこだわっています。深煎りから浅煎りまで、様々な豆をご用意しており、ミュートの柔らかな音色とともに、ゆったりとした時間を過ごしていただけます。
特に夕方から夜にかけての時間帯は、ミュートを使ったバラードが店内に流れることが多く、一日の疲れを癒す空間となっています。仕事帰りに立ち寄られるお客様も多く、「ここに来ると心が落ち着く」と言っていただけるのが、私たちの何よりの喜びです。
ミュートの音色が持つ魅力の本質
ここまでミュートについて様々な角度からお話ししてきましたが、その魅力の本質はどこにあるのでしょうか。
一つは、音の「引き算」の美学です。トランペットの本来の音色から、何かを取り去ることで、逆に表現の幅が広がるというパラドックスがあります。大きな音、華やかな音が良いとは限りません。ミュートによって絞られた音色だからこそ、繊細な感情表現が可能になるのです。
もう一つは、親密性です。ミュートを使った音色は、まるで耳元で囁かれているような、親密な印象を与えます。これは、大きなホールではなく、当店のような小さな空間で聴くのに最適です。演奏家と聴き手の距離が近づくような、特別な体験ができます。
そして、ノスタルジアです。ミュートの音色には、どこか懐かしさを感じさせる響きがあります。それは、ジャズの黄金時代を彷彿とさせるからかもしれません。当店に並ぶ古いレコードから流れるミュートの音色は、時代を超えて、今も私たちの心に響きます。
当店では、これらの魅力を、最高の環境でお届けしたいと考えています。音楽は単なる背景ではなく、その場の空気を作り、人の心を動かす力を持っています。ミュートの音色も、そんな音楽の力の一つなのです。
まとめ:音楽とともに過ごす贅沢な時間
トランペットのミュートは、音色を変化させるだけの道具ではありません。それは、演奏家の感情を伝え、聴く人の心に響く、音楽表現の重要な要素です。
ストレートミュート、カップミュート、プランジャーミュートなど、様々な種類があり、それぞれが独特の音色を生み出します。マイルス・デイヴィス、チェット・ベイカー、クリフォード・ブラウンといった巨匠たちが、ミュートを使って残した名演は、今も色褪せることなく、私たちに感動を与え続けています。
ライブ喫茶ELANは、そんなミュートの音色を含め、質の高い音楽体験を提供する場所です。広く落ち着いた店内で、こだわりのコーヒーとともに、往年の名曲をお楽しみください。
音楽は、忙しい日常から少し離れて、自分と向き合う時間を与えてくれます。ミュートの柔らかな音色に耳を傾けながら、ゆったりとした時間を過ごす。それは、現代社会では貴重な、贅沢な体験です。
名古屋にお越しの際は、ぜひライブ喫茶ELANにお立ち寄りください。マスターが厳選したレコードと、丁寧に淹れたコーヒーで、皆様のお越しをお待ちしています。トランペットのミュートが奏でる、繊細で美しい音色の世界を、一緒に楽しみましょう。
音楽とコーヒー、そして心地よい空間。この三つが揃ったとき、特別な時間が生まれます。日々の喧騒を忘れ、音楽に身を委ねる。そんなひとときを、当店で過ごしていただければ幸いです。
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Cafe & Music ELAN
やわらかな音と、香り高い一杯を。
名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分
ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います
あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております
