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2025年06月21日

ドレミはイタリア語 – 音楽の言語が教えてくれる文化の違い

こんにちは。名古屋のライブ喫茶ELANです。

音楽を愛する皆さんなら、「ドレミファソラシド」という音階は当たり前のように使っていることでしょう。しかし、この馴染み深い音名が実はイタリア語由来だということをご存知でしょうか。
今日は、音楽の世界における言語の多様性について、少しお話しさせていただきます。

ドレミファソラシドの起源

私たちが普段使っている「ドレミファソラシド」は、11世紀のイタリアの音楽理論家グイード・ダレッツォ(Guido d’Arezzo)によって考案されました。彼は聖ヨハネ賛美歌「Ut queant laxis」の各節の最初の音節を取って音名を作ったのです。

最初は「ウト・レ・ミ・ファ・ソル・ラ」の6音でしたが、後に7番目の音「シ」が加わり、さらに「ウト」が発音しやすい「ド」に変更されて、現在の「ドレミファソラシド」が完成しました。この変化も興味深いもので、「ド」への変更は17世紀頃に行われ、Dominus(主)の頭文字から取られたとする説が有力です。

世界各国の音名システム

ところが、この音名システムは世界共通ではありません。国や地域によって、まったく異なる音名が使われているのです。

英語圏の音名システム

英語圏では「C-D-E-F-G-A-B-C」というアルファベット表記が一般的です。これは、私たちの「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」に対応しています。

興味深いのは、英語圏ではこのアルファベット表記と並行して「Do-Re-Mi-Fa-Sol-La-Ti-Do」も使われることです。ここで注目すべきは「シ」が「Ti」になっていることです。これは「Si」と「Sol」の混同を避けるための配慮だと言われています。

ドイツ語圏の特殊な音名システム

ドイツ語圏では「C-D-E-F-G-A-H-C」という独特のシステムが使われています。ここで特徴的なのは、7番目の音が「B」ではなく「H」であることです。

この「H」の使用には歴史的な経緯があります。中世ヨーロッパでは、シの音に「シ・ナチュラル」と「シ・フラット」の2つの音程があり、前者を「H(hard)」、後者を「B(soft)」と呼んでいました。英語圏では後にシ・ナチュラルも「B」と呼ぶようになりましたが、ドイツ語圏では伝統的な「H」を維持したのです。

このため、ドイツでは変音記号を含む音名も独特の表記になります。例えば、「B」は私たちの「シのフラット」を意味し、「Bb」ではなく単に「B」と表記されます。これは初学者には混乱の元になることもありますが、ドイツの音楽伝統の深さを物語っています。

フランス語圏とその他の地域

フランス語圏では基本的にイタリア語系の「Do-Ré-Mi-Fa-Sol-La-Si-Do」が使われますが、発音がフランス語風になります。また、クラシック音楽の教育現場では、しばしばドイツ式のアルファベット表記も併用されます。

スペイン語圏やポルトガル語圏でも、それぞれの言語に適応した形でイタリア語系の音名が使われています。しかし、細かい発音や表記には各言語の特徴が現れます。

日本における音名の受容

日本では明治時代に西洋音楽が本格的に導入された際、イタリア語系の「ドレミファソラシド」が採用されました。しかし、興味深いことに、日本の音楽教育では同時に英語系の「CDEFGAB」も教えられています。

これは実用的な理由もあります。楽譜上では音名はアルファベットで表記されることが多く、コードネームなども英語系のアルファベット表記が国際標準となっているからです。そのため、日本の音楽学習者は両方のシステムを習得する必要があり、これが日本の音楽教育の特徴のひとつとなっています。

また、日本には伝統的な音名システムもあります。雅楽で使われる「壱越(いちこつ)、断金(たんぎん)、平調(ひょうじょう)」などの音名や、三味線音楽の「本調子、二上り、三下り」といった調弦法の名称などがそれです。これらは西洋音楽の音名システムとは全く異なる体系を持っています。

音名システムと音楽文化

これらの音名システムの違いは、単なる言語の違いを超えて、各国の音楽文化の特徴を反映しています。

例えば、ドイツの音楽理論の厳密性は「H」の使用にも現れています。バッハの名前(B-A-C-H)が音名としても意味を持つのは、ドイツの音名システムがあってこそです。実際、多くの作曲家が自分の名前や意味のある言葉を音名に変換して作品に組み込んでいます。

イタリアでドレミファソラシドが生まれたのも、イタリアが声楽の伝統を重視してきたことと無関係ではありません。歌いやすい音節を重視した結果が、現在でも多くの国で愛用される音名システムを生み出したのです。

ライブ喫茶ELANでの音楽体験

私たちELANでは、様々な国の音楽を演奏するミュージシャンをお迎えしています。ジャズ、クラシック、フォーク、ワールドミュージックなど、ジャンルも国籍も多岐にわたります。

演奏者同士がセッションをする際、音名の確認で興味深い場面に遭遇することがあります。日本人ミュージシャンが「ドから始めましょう」と言ったとき、外国人ミュージシャンが「C?」と確認する場面。逆に「Let’s start from C」と言われた日本人が「ドですね」と返す場面。こうした小さなやりとりの中に、音楽の国際性と同時に、各国の音楽文化の独自性が垣間見えます。

特にジャズの演奏では、コードネームが英語表記で統一されているため、「Cmaj7」や「Dm7」といった表記が共通言語として機能します。しかし、音程を口ずさむときは各演奏者の母国の音名システムが現れ、多様性を感じることができます。

音楽教育への影響

音名システムの違いは、音楽教育にも大きな影響を与えています。

日本の音楽教育では、小学校では主に「ドレミファソラシド」を、中学校以降では「CDEFGAB」も併用するのが一般的です。これは子どもたちにとって若干の混乱を招くこともありますが、同時に音楽の国際性を理解する良い機会でもあります。

一方、ヨーロッパの音楽院などでは、その国の伝統的な音名システムを基礎として教育が行われることが多く、他国のシステムは副次的に学ぶことが多いようです。これは各国の音楽教育の方針の違いを示しています。

現代における音名システムの統一化と多様性

グローバル化が進む現代において、音楽の世界でも統一化の波があります。特にポピュラー音楽やジャズの分野では、英語系のアルファベット表記がほぼ国際標準となっています。

しかし、クラシック音楽の世界では依然として各国の伝統的な音名システムが重視されています。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団やベルリン・フィルハーモニー管弦楽団では、ドイツ語系の音名が使われることが多く、イタリアのオペラハウスではイタリア語系の音名が使われます。

この多様性は決して統一すべきものではありません。それぞれの音名システムには、その国の音楽文化の歴史と特徴が込められており、音楽の豊かさを表現する重要な要素だからです。

音名と絶対音感

音名システムの違いは、絶対音感の習得にも影響を与えるという研究があります。幼少期に特定の音名システムで音楽を学んだ人は、その音名で音を認識する傾向が強いとされています。

例えば、「ドレミ」で育った日本人が「C」の音を聞いたとき、頭の中では「ド」として認識していることが多いようです。一方、英語圏で「C」として学んだ人は、同じ音を「C」として認識します。

これは音楽の感じ方にも微細な影響を与える可能性があり、音名システムが単なる名称の違いを超えて、音楽体験そのものに関わっていることを示しています。

未来への展望

音楽のデジタル化が進む現代において、音名システムはどのような変化を見せるでしょうか。

デジタル音楽制作では、MIDI規格により音は数値で管理されることが多くなっています。C4(中央のC)を60として数値化する方式が一般的で、これは国際的に統一されています。

しかし、人間が音楽を理解し、表現し、楽しむ限り、音名システムの多様性は保たれるでしょう。それぞれの文化に根ざした音名システムは、その国の音楽的アイデンティティの重要な部分だからです。

ELANからのメッセージ

私たちライブ喫茶ELANは、このような音楽の多様性を大切にしています。ドレミで歌われる日本の童謡も、Cコードから始まるアメリカンスタンダードも、Hキーで演奏されるドイツのリートも、すべてが音楽の豊かな表現です。

お客様には、演奏される音楽の背景にある文化的な多様性も含めて楽しんでいただければと思います。同じメロディーでも、演奏者の文化的背景によって微妙に異なる解釈が生まれることがあります。それこそが生演奏の醍醐味であり、ライブハウスならではの体験です。

音名システムの違いは、音楽が単なる音の組み合わせではなく、人間の文化と深く結びついた芸術であることを私たちに教えてくれます。ドレミファソラシドという親しみやすい音名の背景には、11世紀のイタリアから現代に至る長い歴史と、世界各国の音楽文化の多様性が込められているのです。

次回ELANにお越しいただいた際は、演奏される音楽がどの国の音名システムで考えられているのか、そんなことも想像しながらお聞きいただければ、また違った音楽体験ができるかもしれません。

音楽に国境はありませんが、音楽を生み出す文化には豊かな多様性があります。その多様性こそが、音楽の魅力を一層深いものにしているのだと、私たちは考えています。

皆様のお越しを、心よりお待ちしております。

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