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2025年07月11日

バッハは”コード進行”の祖

現代音楽の礎を築いた巨匠の対位法

名古屋の老舗ライブ喫茶ELANです。今日は音楽理論の奥深い世界へと皆様をご案内いたします。多くの方がご存知のヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750)は、単なるバロック音楽の作曲家にとどまらず、現代に至るまでのあらゆる音楽ジャンルの礎を築いた真の革新者でした。

特に注目すべきは、現代ポップス、ジャズ、ロックで当たり前のように使われているコード進行の多くが、実はバッハの対位法に端を発しているという事実です。今夜は、この音楽史上最も重要な発見の一つについて、ELANの温かい灯りの下で語らせていただきます。

バッハの革新的な対位法とは

対位法とは、複数の独立したメロディーラインを同時に響かせる作曲技法のことです。バッハはこの技法を極限まで発展させ、各声部が独立性を保ちながらも完璧な和声的調和を生み出す方法を確立しました。

彼の代表作「平均律クラヴィーア曲集」や「フーガの技法」を聴いていただければ分かりますが、複数のメロディーが絡み合いながらも、決して混沌とすることなく、むしろ美しい秩序を形成しています。この秩序こそが、現代のコード進行理論の原型なのです。

バッハが生きた時代、まだ「コード」という概念は明確に体系化されていませんでした。しかし、彼の対位法的思考の中には、後に和声学として体系化される原理が既に完璧な形で内包されていたのです。彼は感覚的に、そして論理的に、音楽の根本法則を理解していました。

機能和声の父としてのバッハ

現代の音楽理論における「機能和声」という概念は、18世紀後期から19世紀にかけて理論化されましたが、その実践的な基盤を築いたのはバッハでした。トニック(主和音)、サブドミナント(下属和音)、ドミナント(属和音)という三つの基本機能の関係性を、バッハは既に完璧に理解し、作品に活用していました。

例えば、彼の「小フーガ ト短調 BWV578」を分析してみると、現代のポップスで使われる「vi-IV-I-V」進行(相対的短調では「i-VI-III-VII」)の原型が見つかります。この進行は、現代でも「王道進行」として親しまれ、数え切れないほどのヒット曲で使用されています。

バッハの和声感覚は、単なる経験則を超えていました。彼は音楽の数学的な美しさを直感的に理解し、それを実践に移すことができた稀有な才能の持ち主でした。現代の音楽理論書で学ぶ「禁じられた進行」や「美しい進行」の多くは、バッハの作品から抽出されたものなのです。

ジャズへの影響:コード進行の複雑化

20世紀に入り、ジャズという新しい音楽形式が生まれた時、ミュージシャンたちが参考にしたのは意外にもバッハの作品でした。特に、ビル・エヴァンスやキース・ジャレットといったジャズピアニストたちは、バッハの対位法的思考をジャズの即興演奏に応用し、革新的なサウンドを生み出しました。

ジャズの代表的なコード進行である「ii-V-I」進行も、実はバッハの作品で頻繁に使われていた進行の現代的解釈です。バッハは既に、ドミナントの準備としてのサブドミナント的機能を持つ和音の重要性を理解していました。

さらに興味深いのは、ジャズで重要視される「テンション」の概念です。9th、11th、13thといった拡張和音の響きは、バッハの対位法において異なる声部が生み出す偶発的な不協和音から発展したものです。バッハは意図的にこれらの「美しい不協和」を作品に織り込み、解決への道筋を示していました。

ロック音楽における隠されたバッハ

ロック音楽とバッハの関係は、一見遠いもののように思えます。しかし、多くのロックミュージシャンがバッハから直接的、または間接的に影響を受けています。

ディープ・パープルのリッチー・ブラックモアは公然とバッハへの敬愛を表明し、「Highway Star」などの楽曲でバッハ的な対位法を活用しています。また、プログレッシブロックの巨匠たち、キング・クリムゾンやイエス、ジェネシスなどは、バッハの複雑な構造美をロック音楽に持ち込みました。

さらに驚くべきことに、最も単純に思えるロックのコード進行でさえ、バッハの影響下にあります。例えば、「I-vi-IV-V」という循環コードは、バッハの時代から使われ続けている古典的な進行です。ビートルズの「Let It Be」、エルトン・ジョンの「Don’t Let The Sun Go Down On Me」など、数え切れない名曲がこの進行を基盤としています。

現代ポップスに息づくバッハの遺産

現代のポップスシーンにおいて、バッハの影響はさらに顕著です。プロデューサーやソングライターたちは、意識的にバッハの和声原理を研究し、楽曲制作に活用しています。

特に注目すべきは、「逆循環進行」と呼ばれる「vi-IV-I-V」の進行です。これは、バッハの「C major Prelude BWV846」で使われている進行の変形版であり、現代では「感動的な進行」として多用されています。アデルの「Someone Like You」、コールドプレイの「Fix You」など、心に響く楽曲の多くがこの進行を採用しています。

また、現代のポップスで重要視される「メロディックベースライン」も、バッハの対位法的思考の産物です。単なる和音の根音を弾くのではなく、ベースライン自体がメロディーとして機能する手法は、バッハのフーガで完璧に実践されていました。

ELANで感じるバッハの普遍性

ここELANでは、毎夜様々なジャンルの音楽が奏でられます。ジャズのスタンダードナンバー、ロックの名曲、現代のポップスまで、一見異なるジャンルの楽曲たちが、実は共通の音楽言語を話していることに気づかされます。

その共通言語こそが、バッハが300年前に確立した和声原理なのです。ピアニストが奏でるバラードのコード進行、ギタリストが弾く力強いロックリフ、ベーシストが刻む印象的なベースライン。これらすべてに、バッハの対位法的思考が息づいています。

音楽理論の実践的理解

多くの音楽愛好家にとって、音楽理論は難解で近寄りがたいものかもしれません。しかし、バッハの作品を通じて理解すれば、音楽理論は決して抽象的なものではなく、極めて実践的で美しいものであることが分かります。

例えば、「なぜこのコード進行は美しく聞こえるのか」という疑問は、バッハの対位法的思考を理解することで解決されます。彼は各声部の独立性を保ちながら、全体として完璧な調和を生み出すための原理を発見し、実践していました。

この原理は現代でも有効です。作曲家、アレンジャー、プロデューサーたちが直感的に「良い」と感じるコード進行の多くは、バッハが確立した美の法則に従っているのです。

演奏技術への影響

バッハの影響は、作曲技法だけでなく演奏技術にも及んでいます。現代のピアニスト、ギタリスト、ベーシストたちが習得すべき基本技術の多くは、バッハの作品を通じて発展しました。

特に、「独立した指の動き」という概念は、バッハの対位法的作品を演奏する必要性から生まれました。複数の声部を同時に演奏するためには、各指が独立して動かなければなりません。この技術は、現代のあらゆる楽器演奏において基礎となっています。

また、ジャズやロックで重要視される「アドリブ演奏」の技術も、バッハの即興演奏の伝統から発展したものです。バッハは当時、即興演奏の名手として知られており、与えられたテーマから瞬時にフーガを構築することができました。

デジタル時代における新たな発見

現代のデジタル技術により、バッハの作品の分析はさらに深化しています。コンピューターを使った和声分析により、これまで気づかれなかったバッハの和声的革新が次々と発見されています。

特に興味深いのは、バッハが使用していた「微細な和声変化」が、現代のエレクトロニック・ミュージックで使われる「モジュレーション」技術の先駆けであったという発見です。DAWソフトで作られるポップスやダンスミュージックのサウンドデザインにも、バッハの和声原理が応用されています。

教育への応用

音楽教育の現場でも、バッハの重要性は再認識されています。従来の楽典教育では、理論を先に学んでから実践に移るという方法が一般的でした。しかし、バッハの作品を通じて学ぶことで、理論と実践が自然に結びつくことが分かってきました。

多くの音楽学校では、ジャンルを問わず、バッハの作品を必修として取り入れています。クラシック専攻の学生だけでなく、ジャズ、ロック、ポップス専攻の学生たちも、バッハから音楽の根本原理を学んでいます。

文化的影響の広がり

バッハの影響は、西洋音楽だけでなく、世界各地の音楽文化にも広がっています。日本のJ-POP、韓国のK-POP、ラテンアメリカの音楽など、一見西洋音楽とは異なる音楽文化においても、バッハ的な和声原理が取り入れられています。

これは、バッハが発見した音楽原理が、文化や民族を超えた普遍的な美の法則であることを示しています。人間の聴覚や心理に根ざした、より深いレベルでの音楽的真理を、バッハは300年前に既に把握していたのです。

ELANからのメッセージ

私たちELANは、音楽の持つ無限の可能性と美しさを、毎夜皆様と共有しています。バッハから現代に至るまでの音楽の系譜を理解することで、普段何気なく聞いている楽曲の奥深さに気づいていただけることでしょう。

次回ELANにお越しの際は、演奏される楽曲の中に隠されたバッハの遺産を探してみてください。ジャズのスタンダード、ロックの名曲、現代のポップスの中に、300年前の巨匠の知恵が息づいていることを実感していただけるはずです。

音楽は時代を超えて受け継がれる人類の貴重な財産です。バッハが築いた音楽の言語は、今もなお進化を続け、新しい世代の音楽家たちによって新たな表現として生まれ変わっています。その壮大な音楽の旅路を、ELANで皆様と共に歩んでいきたいと思います。


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