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2025年11月10日

レコードとCD、どちらが”原音に近い”?音楽喫茶が語る本当の音の魅力

こんにちは。名古屋のライブ喫茶ELAN(エラン)です。当店では往年の名曲を収めたレコードが所狭しと並び、毎日多くのお客様が音楽とコーヒーを楽しみながら、ゆったりとしたくつろぎの時間を過ごされています。

そんな当店でよくいただくご質問があります。「レコードとCD、どちらが原音に近いんですか?」というものです。音楽好きの方なら一度は気になったことがあるのではないでしょうか。今日はこのテーマについて、長年レコードで音楽を提供してきた当店の視点から、じっくりとお話ししたいと思います。

レコードとCDの基本的な違いとは

まず、レコードとCDの根本的な違いからご説明しましょう。この違いを理解することが、「原音に近い」という問いに答える第一歩となります。

レコードは「アナログ方式」と呼ばれる技術で音を記録しています。簡単に言えば、音の波形をそのまま溝として盤面に刻み込んでいるのです。針がその溝をなぞることで、音が再生されます。つまり、レコードの溝は音の波形を物理的に表現したものなのです。

一方、CDは「デジタル方式」です。音を数字の情報に変換して記録しています。具体的には、音の波を1秒間に44,100回測定し、それぞれを数値化して保存します。この数値化のプロセスを「サンプリング」と呼びます。再生時には、この数字の情報を再び音の波に戻すのです。

当店で昭和の名曲をレコードでかけると、年配のお客様が「懐かしい」と目を細められることがよくあります。先日も70代の常連様が「このレコードの音、昔聴いた時のまんまだなあ」としみじみおっしゃっていました。レコードには時代を超えて音をそのまま伝える力があるのかもしれません。

「原音」とは何か?という根本的な問い

ここで少し立ち止まって考えてみましょう。そもそも「原音」とは何でしょうか。この定義によって、答えは大きく変わってきます。

もし「原音」がライブ会場やスタジオで演奏された生の音を指すのであれば、実はレコードもCDも、どちらも「原音そのもの」ではありません。録音された時点で、マイクを通し、録音機材を通し、様々な加工を経ているからです。

当店でライブを開催することもありますが、生演奏の音とレコードの音は確かに違います。生演奏には空気の振動や、演奏者の息づかい、楽器が鳴る空間の響きがそのまま伝わってきます。一方、レコードやCDは録音・編集されたものですから、制作者の意図が加わった「作品」なのです。

では、「原音」を「マスターテープ(録音された元の音源)に近い音」と定義するとどうでしょう。これなら比較が可能になります。

アナログレコードの音の特徴

レコードの音には独特の魅力があります。当店で何十年もレコードを扱ってきた経験から、その特徴をお伝えします。

レコードはアナログ方式ですから、理論上は音の波形を連続的に記録できます。デジタルのように数値化して細かく区切る必要がないため、「滑らかな音」が特徴だと言われています。特に高音域の伸びや、音の余韻の美しさは、多くのオーディオ愛好家が高く評価するポイントです。

当店では、ジャズやクラシックをレコードで流すことが多いのですが、お客様からは「温かみがある」「まろやかで聴きやすい」というお声をよくいただきます。特にアナログシンセサイザーを使った70年代のロックや、生楽器中心のジャズは、レコードで聴くと一層魅力が引き立ちます。

ただし、レコードには物理的な限界もあります。針が溝をなぞる方式ですから、どうしても「針音」と呼ばれる小さなノイズが入ります。また、レコード盤は使用するたびに少しずつ摩耗しますし、保管状態が悪いと傷やカビが発生して音質が劣化します。

当店のレコードコレクションも、大切に扱ってはいますが、何度も再生したお気に入りの盤には、わずかなパチパチという音が入るものもあります。不思議なことに、常連のお客様の中には「そのノイズも含めてレコードの味だよね」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

デジタルCDの音の特徴

CDの登場は1982年、音楽業界に革命をもたらしました。デジタル技術によって、それまでにない高音質と利便性を実現したのです。

CDの最大の特徴は、ノイズが非常に少ないことです。デジタルデータとして記録されているため、レコードのような針音やホコリによる雑音がほとんどありません。また、何度再生しても音質が劣化しないのも大きな利点です。

周波数特性も優れています。人間の可聴域(聞こえる音の範囲)は約20Hzから20,000Hzと言われていますが、CDは5Hzから20,000Hzをカバーしています。理論上は人間が聞こえる音をすべて記録できる設計なのです。

ダイナミックレンジ(最も小さい音と最も大きい音の幅)も約96dBと広く、繊細な音から迫力ある音まで正確に再現できます。これはレコードの約60〜70dBと比べても優れた数値です。

当店でもCDプレーヤーを使用することがありますが、特にクラシック音楽の繊細な表現や、現代のポップス・ロックのダイナミックな音作りは、CDの方が制作者の意図を忠実に再現しているように感じます。

しかし、CDにも課題があります。それは「デジタル化」のプロセスそのものです。連続的な音の波を数値化する際に、どうしてもわずかな情報が失われます。これを「量子化誤差」と呼びます。また、サンプリング周波数(1秒間に何回測定するか)にも限界があるため、理論上は元の音を完全には再現できないのです。

科学的に見た「原音への近さ」

ここからは少し技術的な話になりますが、できるだけわかりやすくご説明します。

測定器を使って客観的に比較すると、CDの方が「数値的には正確」という結果が出ます。ノイズが少なく、周波数特性も安定していて、マスターテープからの再現性も高いのです。

しかし、人間の耳で聴いた時の印象は別です。多くのオーディオ愛好家が「レコードの方が音楽的に豊かに聞こえる」と感じるのは、実は科学的な理由があります。

一つは、レコードに含まれる「偶数次高調波歪み」です。これは音が歪むことなのですが、人間の耳には心地よく響く性質があります。真空管アンプが今でも人気なのも、同じ理由です。

もう一つは、20,000Hz以上の超高音域です。CDは20,000Hz以上をカットしますが、レコードには記録されている可能性があります。人間には聞こえないとされる音域ですが、これが音の印象に影響を与えているという研究もあります。

当店で音楽を流していて感じるのは、「正確さ」と「心地よさ」は必ずしも一致しないということです。お客様が求めているのは、データ上の正確さよりも、音楽を聴く喜びや感動なのかもしれません。

ライブ喫茶ELANでのレコード体験

当店では、広く落ち着いた雰囲気の店内で、往年の名曲を収めたレコードを日々お楽しみいただいています。なぜレコードにこだわるのか、それには理由があります。

レコードをかける行為そのものに、特別な時間が生まれるのです。盤を棚から取り出し、ジャケットを眺め、ターンテーブルに載せ、針を落とす。この一連の動作が、音楽を聴く準備となり、心を整える儀式のようになっています。

お客様の中には、リクエストをくださる方もいらっしゃいます。「今日はこの気分だから、あのアルバムをかけてもらえますか」と。そんな時、当店のスタッフが棚からそのレコードを探し出し、丁寧に針を落とす。するとお客様の表情がほころび、最初の音が鳴った瞬間に目を閉じて聴き入られる。そんな光景は、何度見ても感動的です。

先日、初めて来店された若い方が「レコードの音って、こんなに違うんですね」と驚かれていました。普段はスマートフォンで音楽を聴いているそうですが、当店のレコードの音を聴いて「音に包まれる感じがする」とおっしゃっていました。

これは音響設備の違いもありますが、レコードという媒体が持つ特性と、それを聴く空間、そして音楽に集中する時間が組み合わさった結果だと思います。

音楽を楽しむということ

ここまで技術的な話をしてきましたが、最も大切なのは「音楽をどう楽しむか」ということではないでしょうか。

レコードにもCDにも、それぞれの良さがあります。レコードには温かみや独特の質感があり、CDには高い再現性とクリアな音質があります。どちらが「原音に近い」かという問いへの答えは、何を基準にするかで変わってきます。

当店でコーヒーを淹れながらいつも思うのは、音楽もコーヒーも、数値では測れない豊かさがあるということです。完璧に抽出された一杯よりも、その日の気分や雰囲気に合った一杯の方が、お客様に喜ばれることがあります。

音楽も同じです。スペック上は優れていても、心に響かなければ意味がありません。逆に、少しノイズがあっても、その音楽が人生の特別な瞬間を思い出させてくれるなら、それこそが「良い音」なのです。

当店の常連様で、若い頃によく聴いたというビートルズのレコードをリクエストされる方がいます。その方は「このパチパチという音も含めて、あの頃の思い出なんだよ」とおっしゃいます。その方にとっては、完璧なデジタル音源よりも、ノイズ入りのレコードの方が「本物の音」なのでしょう。

当店がレコードで音楽を提供する理由

ライブ喫茶ELANがレコードにこだわるのは、音質だけでなく、音楽を聴く体験全体を大切にしたいからです。

レコードには「時間」があります。A面が終わればB面に裏返す必要があり、その間に一息つくことができます。この間が、音楽と向き合う時間を作り出してくれます。デジタル配信のように次々と曲が流れていくのではなく、アルバム単位でじっくりと音楽と対話できるのです。

また、レコードジャケットの存在も大きいです。当店の壁に並ぶレコードジャケットは、それ自体が一つの芸術作品です。お客様がジャケットを眺めながら「これ、昔持ってたなあ」「このジャケット、有名なデザイナーが手がけたんだよね」と会話が生まれることもよくあります。

物理的な存在感が、音楽をより豊かな体験にしてくれるのです。データとして存在するだけの音楽とは、また違った価値があると私たちは考えています。

当店では、オーディオ機器にもこだわっています。レコードの音を最大限に引き出すために、適切なプレーヤーとアンプ、スピーカーを選定しています。これも「良い音」を提供するための大切な要素です。

現代における音楽メディアの選択

現代では、レコード、CD、ハイレゾ音源、ストリーミング配信と、様々な選択肢があります。それぞれに長所があり、用途に応じて使い分けるのが賢い選択でしょう。

通勤中や移動中には、スマートフォンで手軽に音楽を楽しむ。自宅でゆっくり音楽に浸りたい時は、レコードやCDをかける。このような使い分けをされている方も多いのではないでしょうか。

当店のお客様の中にも、普段は配信サービスで音楽を聴いているけれど、週末には当店に来てレコードの音を楽しまれる、という方がいらっしゃいます。それぞれのメディアの良さを理解し、シーンに応じて選択されているのです。

興味深いことに、近年は若い世代の間でもレコードが見直されています。世界的にレコードの生産枚数が増えており、新譜もレコード盤でリリースされることが増えています。これは単なる懐古趣味ではなく、レコードという体験そのものに価値を見出す人が増えているからでしょう。

音楽と空間、そして時間

当店で音楽を提供していて感じるのは、音楽は音だけで完結するものではないということです。

どんな空間で聴くか、誰と聴くか、どんな気分の時に聴くか。これらすべてが音楽体験を作り上げています。当店の広く落ち着いた雰囲気、丁寧に淹れたコーヒーの香り、周囲のお客様の穏やかな空気感。これらが組み合わさって、特別な音楽体験が生まれるのです。

レコードの音は、こうした空間との相性が良いように思います。少しノイズがあっても、温かみのある音は喫茶店の雰囲気に溶け込みます。お客様が本を読みながら、あるいは友人と語らいながら、BGMとして流れる音楽。完璧に静かである必要はなく、むしろ生活に寄り添う音であることが大切なのです。

ある常連のお客様は「家で聴く音楽と、ELANで聴く音楽は、同じレコードでも違って聞こえる」とおっしゃいます。それは音響機器の違いもあるでしょうが、何より空間と時間が違うからでしょう。音楽は、それを聴く環境と一体となって、初めて完成するのかもしれません。

最後に:「良い音」とは何か

「レコードとCD、どちらが原音に近いか」という問いに対して、当店なりの答えをお伝えするなら、こうなります。

測定可能な数値で見れば、CDの方が正確です。ノイズが少なく、周波数特性も優れています。しかし、人間が音楽を聴いて感じる豊かさは、数値だけでは測れません。レコードには、デジタルでは表現しきれない質感や温かみがあります。

結局のところ、「良い音」とは、聴く人の心に響く音なのだと思います。それがレコードであってもCDであっても、あるいは配信であっても構いません。大切なのは、音楽を通じて得られる感動や癒し、そして豊かな時間です。

ライブ喫茶ELANでは、これからもレコードで音楽を提供し続けます。それは私たちが、レコードという媒体が生み出す音楽体験に、かけがえのない価値を感じているからです。往年の名曲をレコードで聴きながら、コーヒーを味わい、ゆったりとした時間を過ごす。そんな贅沢な時間を、皆様にお届けしたいと考えています。

音楽とコーヒー、そして心地よい空間。この三つが揃った時、数値では測れない「最高の音」が生まれるのです。ぜひ一度、当店で実際にレコードの音を体験してみてください。きっと、新しい音楽の楽しみ方を発見していただけるはずです。

名古屋のライブ喫茶ELANで、皆様のお越しをお待ちしております。

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Cafe & Music ELAN 

やわらかな音と、香り高い一杯を。

名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
 営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分

ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います

あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております