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2025年12月26日

レコードの「マトリクス番号」って何?──音に刻まれた”製造の履歴書”

こんにちは。名古屋・熱田のライブ喫茶ELAN(エラン)です。

当店では、こだわりの音響設備と豊富なレコードのコレクションを通じて、音楽の奥深い魅力をお伝えしています。

今日は、レコード好きの間でよく話題になる「マトリクス番号(Matrix Number)」について、少し掘り下げてお話ししてみたいと思います。

常連のお客様からも「盤面に刻まれているこの数字、いったい何?」と聞かれることがよくあります。見た目はただの英数字の羅列ですが、実はそのレコードがどんな工程をたどって作られ、どのように音が刻まれたのかを示す”履歴書”のような存在なんです。


マトリクス番号とは?──レコードの「設計図」のようなもの

マトリクス番号とは、レコード盤面の溝の外側(ラベルの近く)に刻まれた英数字のコードのことです。

この番号は、マスターテープからレコードを作る過程、つまり**「どの原版(マスター)からプレスされたのか」**を識別するために刻印されています。

たとえば、ビートルズの有名なアルバムを例にとると、同じアルバムでも「UK初版」や「US盤」「再発盤」など、それぞれに異なるマトリクス番号が記されています。この番号を見ることで、「これは初回プレスなのか」「どの工場で作られたのか」という情報を知ることができるのです。

お客様の中には、レコードを手に取りながら「音が全然違うね」とおっしゃる方もいます。実はそれ、マトリクス番号の違いが関係しているかもしれません。初期プレスほど音がクリアだったり、エッジが立っていたりすることが多いんです。


レコードができるまで──マトリクス番号が刻まれる工程

では、マトリクス番号はどのような過程で刻まれるのでしょうか。ここで一度、レコード製造の流れを簡単におさらいしてみましょう。

1. 録音(Recording)

スタジオで演奏を録音し、マスターテープを作ります。ここがレコード制作の出発点です。

2. ラッカーカッティング(Lacquer Cutting)

マスターテープの音をもとに、ラッカー盤という柔らかい素材に音の溝を「カッティング」します。この段階で、エンジニアが音のバランスやトーンを微調整します。

3. メタルマスター(Metal Master)作成

ラッカー盤にメッキを施して、金属製の「メタルマスター(母型)」をつくります。この母型は非常に繊細で、取り扱いには細心の注意が必要です。

4. マトリクス番号の刻印

この工程で、レコードがどの盤から作られているのかを識別するための番号――つまりマトリクス番号が刻み込まれます。番号の内容には、製造工場・国・マスターのバージョン・担当エンジニアなど、さまざまな情報が含まれます。

5. プレス(Pressing)

メタルマスターをもとに、実際のレコード盤(商品)がプレスされます。このとき、円盤状のPVC素材を加熱・圧延して盤にします。

つまりマトリクス番号は、「どの段階の母型から作られた製品か」を確認するための一種のラベルなんです。レコードには大量の再プレスや再発が存在しますが、番号を見れば「初版」か「後期版」かをある程度判断できます。


マトリクス番号でわかる情報──同じアルバムでも音が違う理由

実際にマトリクス番号を見ることで、次のような情報を読み取ることができます。

カッティング番号

例として「A-1」「B-3」などがあります。「A面1回目のカッティング」「B面3回目の修正版」といった意味を持ちます。数字が小さいほど、初回プレスの可能性が高いです。

国・工場の識別記号

たとえば「YEX」はイギリス(EMI系)、「RL」はアメリカの名カッティングエンジニアBob Ludwigの刻印など。これによってどこのマスターを使ったのかがわかります。

手書き・機械刻印の違い

職人による手書きの刻印は、初期生産の証拠であることが多いです。再発が進むと、ナンバーも規格化されて機械的になります。

実際、当店のコレクションでも、「同じタイトルなのに音が違う」というケースが多くあります。

たとえば、マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』。初期プレスは艶やかで空気感があり、後期プレスでは少しソフトな印象になります。これは録音やマスタリングの違いだけでなく、マトリクス番号で表される製造工程の違いが音に影響しているのです。


お客様との会話から生まれた”発見”

ある日、常連のお客様が「このレコード、同じアルバムなのに音が全然違う」と話されました。

手にしていたのは、ビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』。私も聴いてみると、確かに一方はシャープで透明感のある音、一方は柔らかく膨らみのある音。盤面を確認すると、マトリクス番号がまったく違っていました。

その違いを説明すると、お客様は「なるほど、番号ひとつで音の”時代”がわかるんだね」と笑顔に。こうした体験が、レコードの奥深さであり、聴くたびに発見がある楽しみだと思います。


初心者の方へ──マトリクス番号の見方と楽しみ方

マトリクス番号を見るのは難しくありません。盤面ラベルのすぐ外側、光にかざしてぐるっと見てみてください。小さく「A-1」や「B-2」といった文字が見えるはずです。それがあなたのレコードの製造の証です。

もし同じアルバムを複数持っている方は、ぜひ聴き比べをしてみてください。

おすすめの聴き比べ方法

初版と再発版を比べて「音の立ち上がり」「ステレオの広がり」を聴いてみましょう。刻印エンジニア(RL、PORKYなど)を調べてみるのも面白いです。また、国ごとのプレス(UK盤・US盤・日本盤など)で音の個性を感じることもできます。

こうした比較は、まるでワインのテイスティングのように奥が深く、音楽を何倍も楽しめるようになります。


ライブ喫茶ELANでのアナログ体験

ELANでは、JBLのヴィンテージスピーカー「model 4344」やレーザーターンテーブルを使用し、針では拾えない音までも再現しています。だからこそ、マトリクス番号による音の違いを、明確に体験していただけるのです。

レーザーターンテーブルとは

レーザーターンテーブルは、レコードの溝を針ではなくレーザー光線で読み取る特殊な再生機器です。針が溝に触れないため、盤面を傷つけることなく再生できるという大きな特徴があります。また、針では物理的に拾いきれない微細な溝の情報まで読み取ることができるため、より繊細でクリアな音質を実現します。

当店では、この最先端技術と往年の名機JBL 4344を組み合わせることで、アナログレコードの持つ本来の魅力を最大限に引き出しています。

お持ち込みレコードも大歓迎

お好きなアーティストのレコードをお持ちいただければ、店内のシステムで再生して聴き比べることもできます。気になる方は、スタッフに「この番号のレコードをかけてください」とぜひリクエストしてみてください。音の違いを感じた瞬間、きっとアナログの奥深さに引き込まれるはずです。


マトリクス番号にまつわる豆知識

レコードファンの間では、マトリクス番号に関するさまざまなエピソードが語り継がれています。いくつかご紹介しましょう。

有名なエンジニアの刻印

カッティングエンジニアの中には、自分の刻印を残すことで知られる人物がいます。たとえば、イギリスのジョージ・ペッカム(通称「PORKY」)は、自身の愛称を盤面に刻むことで有名です。「A PORKY PRIME CUT」などの文字が見つかると、コレクターの間では価値が上がることもあります。

隠しメッセージ

一部のレコードには、マトリクス番号のそばにエンジニアやアーティストからの隠しメッセージが刻まれていることがあります。これらは「デッドワックス」と呼ばれる、音溝のない部分に記されています。ファンにとっては、宝探しのような楽しみがあります。

国ごとの特徴

同じアルバムでも、プレスされた国によってマトリクス番号の付け方が異なります。イギリス盤、アメリカ盤、日本盤など、それぞれに独自の規則があり、音質の違いにも反映されています。日本盤は一般的に「帯付き」として人気がありますが、音質面でも独特の魅力があるといわれています。


レコード収集の新しい視点

マトリクス番号を意識するようになると、レコード収集の楽しみ方が変わってきます。

初版を探す楽しみ

同じアルバムでも、初版と再発版では音質が異なることがあります。マトリクス番号を確認することで、より初期のプレスを見分けることができます。中古レコード店やフリーマーケットで掘り出し物を見つけたときの喜びは格別です。

聴き比べコレクション

同じ作品の異なるプレスを集めて聴き比べるのも、マニアックですが奥深い楽しみ方です。UK盤とUS盤、モノラルとステレオ、初回プレスと再発盤など、組み合わせは無限にあります。

音楽史への理解

マトリクス番号を調べていくうちに、レコード産業の歴史やレーベルの変遷についても詳しくなっていきます。音楽そのものだけでなく、その周辺文化への理解も深まるでしょう。


まとめ──数字の奥に宿る”人の手”のぬくもり

マトリクス番号は、ただの印字ではありません。

その裏には、カッティングエンジニアの感性、プレス工場の技術、そして音楽を最高の形で届けようとする人々の思いが込められています。

私たちライブ喫茶ELANは、そんな音づくりの背景を感じながら一枚一枚のレコードを大切に再生しています。

ぜひ、あなたもお気に入りのレコードを手に取り、その小さな数字に込められたストーリーを想像してみてください。音楽が、もっと身近で、もっと深く感じられるはずです。

皆さまのご来店を心よりお待ちしております。


ライブ喫茶ELAN(エラン)

名古屋・熱田にて、こだわりの音響でアナログレコードの魅力をお届けしています。

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Cafe & Music ELAN 

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定休日|月曜・第1&第3火曜日
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ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います

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