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2026年01月12日
レコード針(カートリッジ)の違いで音はどう変わる?|ライブ喫茶ELANが伝える、針選びの楽しみ方
針(カートリッジ)は、「どの音を、どんな表情で聴かせるか」を決める、とても重要なパーツです。同じレコードでも、針を替えるだけで「柔らかい」「シャープ」「奥行きがある」といった印象ががらりと変わります。
ライブ喫茶ELANが「針」にこだわる理由
名古屋・熱田区のライブ喫茶ELANでは、毎日のようにレコードをかけていますが、同じ一枚でも「どの針で再生するか」で、お客様の表情が変わる瞬間を何度も見てきました。レコードプレーヤーにとって針は、「レコードの溝」と「スピーカーから出る音」をつなぐ入り口であり、ここで拾われた振動が、そのまま音のキャラクターを決めてしまいます。
レコードは、溝の細かな凹凸に音の情報が刻まれていますが、その溝をなぞるのが針(スタイラス)、そしてその振動を電気信号に変えるのがカートリッジです。つまり、プレーヤーのアームの先端に付いている小さな部品が、音楽の「表情」と「情報量」のほとんどを握っていると言っても過言ではありません。
ある常連のお客様は、いつも同じビル・エヴァンスのレコードをリクエストされるのですが、ある日「今日は少しシャープに聴きたいから、あのカートリッジでかけてもらえる?」と指定されたことがありました。実際に針を変えて再生すると、「ピアノのタッチの立ち上がりが分かりやすい」「シンバルの余韻がよく見える」と、とても嬉しそうに話してくださり、その姿を見て改めて「針の違いが音楽体験そのものを変えてしまう」と感じたのを覚えています。
このブログ記事では、そんなお店の現場からの目線で、「針(カートリッジ)の違いで音がどう変わるのか」を、初心者の方にも分かりやすくお伝えしていきます。専門的な話も出てきますが、なるべく日常的な言葉に置き換えながら解説しますので、レコードを聴き始めたばかりの方も、コーヒー片手に気楽に読み進めていただければうれしいです。
そもそも「針」と「カートリッジ」とは何か
まずは用語を整理しておきます。レコードまわりの会話では、つい「針」「カートリッジ」「ヘッドシェル」がごちゃっと混ざってしまいがちですが、それぞれ役割が違います。
- 針(スタイラス):レコードの溝に直接触れる、ごく先端の部分
- カンチレバー:針先とカートリッジ本体をつなぐ細い棒状の部品
- カートリッジ本体:針の振動を電気信号に変える「心臓部」
- ヘッドシェル:カートリッジを取り付けて、アームに固定する土台
一般的な会話の中では、これらを全部ひっくるめて「レコード針」と呼ぶことが多いのですが、音の違いを意識し始めると、「針先(形状)」と「カートリッジの方式」は分けて考えたほうが、イメージしやすくなります。
レコードから音が出る仕組みは、とてもシンプルです。レコードの溝には、音の波形に合わせた細かな凹凸が刻まれており、そこに針を落とすと、溝に沿って針が左右や上下に振動します。その振動がカートリッジ内部の磁石やコイル、あるいは圧電素子(ピエゾ素子)に伝わり、電気信号に変換されます。その信号をフォノイコライザーとアンプが増幅し、最終的にスピーカーから音として出てくる、という流れです。
よくお客様から「針を変えるだけで、そんなに違うの?」と聞かれますが、例えるなら、同じ歌を同じマイクで録音しても、「声そのもの」が違えば印象が変わるのと同じです。カートリッジは、レコードの「声帯」のようなもので、どの音をどれくらいの表情で拾うかという性格がひとつひとつ違います。
ある日の営業中、新しくレコードを聴き始めたお客様に、MM型カートリッジとMC型カートリッジで同じジャズボーカルを聴き比べていただいたことがありました。再生するたびに針を交換しながら、「こっちは声が前に出てきますね」「こっちは伴奏との一体感がすごい」と、まるでワインのテイスティングのように感想を言い合ってくださり、「針だけで、こんなに音の雰囲気が変わるとは思わなかった」と驚かれていました。
カートリッジの方式で変わる音のキャラクター
針(カートリッジ)の音の違いを理解するうえで、まず押さえておきたいのが「方式」の違いです。主な種類としては、MM型、MC型、そしてセラミック型(ピエゾ型)などがありますが、ここでは初心者の方がよく耳にする三つを中心に解説します。
MM型カートリッジ(ムービングマグネット)
MM型とは「ムービング・マグネット(Moving Magnet)」の略で、針の振動に合わせて磁石が動き、その変化をコイルで拾って電気信号を取り出す方式です。一般的な入門機から中級機の多くで採用されており、「交換針が豊富」「扱いやすい」「音の傾向が分かりやすい」といった特徴があります。
MM型の音の印象としては、次のような傾向が語られることが多いです。
- 音がはっきりしていて、輪郭が分かりやすい
- 中域(ボーカルやサックスなど)がしっかり前に出る
- ジャンルを問わずバランスが良い
ある日、初めてレコードプレーヤーを買ったというお客様が、「CDと同じアルバムなのに、こっちのほうがあたたかい気がする」と話してくださったことがありました。そのとき使っていたのが、ごくスタンダードなMM型カートリッジだったのですが、「楽器がちゃんとそこにいる感じ」「音が立体的に並んでいる感じ」が分かりやすく、初めての方にも違いが伝わりやすいと感じています。
MC型カートリッジ(ムービングコイル)
MC型は「ムービング・コイル(Moving Coil)」の略で、MM型とは逆に、磁石を固定し、針の振動に合わせてコイルが動くことで発電する方式です。一般的にMM型よりも繊細で、情報量の多い音を再生できるとされており、中級者〜上級者に人気があります。
MC型の特徴として、次のような点が挙げられます。
- 細かなニュアンスや空気感がよく出る
- 音の分離が良く、楽器同士の位置関係が見えやすい
- 静かなパートでの「無音の質感」さえ違って感じられる
ただし、出力電圧が低いため、MC対応のフォノイコライザーが必要になったり、針だけの交換ができないモデルも多かったりと、MM型に比べてやや敷居が高いのも事実です。
ELANでも、夜のジャズタイムなど、じっくり聴かれるお客様が多い時間帯にはMC型のカートリッジを使うことがあります。同じピアノトリオのレコードでも、MM型では「ライブ感のある、前に出てくる音」、MC型では「ホールの空気ごと再現されたような奥行きのある音」として聴こえることがあり、「さっきと同じ盤ですよ」とお伝えすると驚かれる方も少なくありません。
セラミック型(ピエゾ型)など
かつてのポータブルプレーヤーなどには、圧電素子(ピエゾ素子)を使ったセラミック型のカートリッジもよく使われていました。これは、針の振動で素子が変形し、そのときに発生する電圧を利用する方式で、構造が簡単で扱いやすいというメリットがあります。
セラミック型は、MMやMCと比べるとやや粗めで、レンジ(再生できる周波数帯域)が狭く感じられることが多いのですが、その素朴さが懐かしさにつながる場合もあります。昔のラジカセ風プレーヤーのような味わいを好む方にとっては、「これぞレコード」というイメージに近い音に感じられるかもしれません。
針先の形状で変わる「輪郭」と「情報量」
方式の違いと並んで、音の違いに直結するのが「針先の形状」です。針がどのようにレコードの溝に触れるかによって、拾える情報量や、音の滑らかさ、歪み方などが変わってきます。
代表的な針先には、次のような種類があります。
- 丸針(ラウンド):先端が丸い、もっとも一般的な形状
- 楕円針:前後方向が細く削られ、溝の奥まで入りやすい形状
- ラインコンタクト系(シバタ針など):溝に沿って線で接触し、情報量を最大限引き出す高性能タイプ
丸針の特徴
丸針は、ボールペンの先のように丸く仕上げられた針先で、レコードの溝に「点」で触れるイメージです。構造がシンプルでコストも抑えやすく、耐久性も高いため、入門機や普段使いのカートリッジによく採用されています。
音の印象としては、次のように語られることが多いです。
- 音の立ち上がりが穏やかで、聞き疲れしにくい
- 中低域がふくよかに感じられやすい
- 解像度よりも「雰囲気」を楽しむ聴き方に向いている
ELANでも、お昼の時間帯など、BGMとしてジャズやポップスをゆったり流すときには丸針のカートリッジを使うことがあります。カウンターでコーヒーを飲んでいらっしゃるお客様からは、「音がやわらかくて落ち着きますね」と言われることが多く、丸針特有の”にじみ”が、喫茶店の空気によくなじんでくれると感じています。
楕円針の特徴
楕円針は、その名の通り、針先を楕円形に研磨したもので、丸針よりも溝の奥深くまで入り、より細かな凹凸をたどることができます。そのため、音の解像度が上がり、高域の情報や楽器の分離がよく聴き取れるようになります。
楕円針の主な特徴は次の通りです。
- シンバルの余韻やストリングスの質感が細かく見える
- ボーカルの息遣い、サックスのキー音なども拾いやすい
- 丸針に比べて、歪みが減り、ステレオ感が明瞭になる
一方で、溝に深く入り込む分、針先への負担が大きく、寿命がやや短くなる傾向があります。また、録音や盤質によっては、情報量が増えたことで「少し神経質に聞こえる」と感じる方もいるかもしれません。
夜のジャズ・ライブのない時間帯に、常連のお客様と「今日はディテール多めで聴きたいですね」と話しながら、楕円針のカートリッジに付け替えて再生したことがあります。同じマイルス・デイビスのアルバムでも、ハイハットの立ち上がりやトランペットのミュートのニュアンスがぐっと前に出て、「こんな音入ってた?」と驚かれていました。
ラインコンタクト系針の特徴
ラインコンタクト針(シバタ針など)は、レコードを刻むカッターヘッドの形状に近づけた高性能な針先で、溝に沿って「線」で接触するようなイメージです。これにより、音溝の情報を非常に高い精度でトレースでき、ハイエンドなオーディオシステムでその真価を発揮します。
特徴としては、次の点が挙げられます。
- 非常に高い解像度と広いダイナミックレンジ
- 大編成オーケストラやライブ録音のスケール感が見事に再現される
- セッティングのシビアさや価格面のハードルがやや高い
ELANでは、普段の営業ではレーザーターンテーブルを使うことも多いのですが、オーディオ好きのお客様が集まるイベントでは、こうした高性能針を持ち込んでいただき、システムにつないでじっくり聴くこともあります。そうしたとき、「針先の違いだけで、ここまで音の表情が変わるのか」と、オーナー自身も毎回新鮮な驚きを味わっています。
初心者が針を選ぶときのポイントと、ELANからの提案
ここまで、「方式」と「針先の形状」という二つの観点から、針(カートリッジ)の違いを見てきました。とはいえ、これからレコードを始めたい方にとっては、「結局、何を選べばいいの?」というのが一番気になるところだと思います。
ELANとして、初心者の方にお伝えしているポイントは、次の三つです。
- まずはMM型の標準的なカートリッジから始める
- 針先は「丸針」か「楕円針」の定番モデルを選ぶ
- 音の好みが分かってきたら、少しずつ違う針を試してみる
1. 「何を聴きたいか」を決める
針選びを始める前に、「どんな音楽を、どんな気分で聴きたいか」をざっくり決めておくと、迷いにくくなります。たとえば次のようなイメージです。
- カフェのようにBGMとして流したい:丸針+MM型で、やわらかな音を
- ジャズの細かなニュアンスを味わいたい:楕円針+MMまたはMC型
- 録音の空気感までじっくり聴き込みたい:MC型+高性能針を視野に
ELANでは、実際に店内で流れている音を聴いていただきながら、「もう少しクリアな音が好き」「もう少し丸い音が安心する」といった会話をしつつ、イメージを一緒に整理していくこともあります。レコードの世界は選択肢が多いぶん、「好み」を言葉にするところから始めると、楽しみ方がぐっと広がります。
2. 交換のしやすさも大事な要素
初心者の方には、「交換のしやすさ」も大切なポイントとしてお伝えしています。MM型カートリッジは、メーカーから交換針が多く出ており、針先を交換するだけで使い続けられるモデルが主流です。一方、MC型は針交換ができないものも多く、その場合は丸ごと買い替える必要があります。
実際に、ELANのお客様でも「最初からMC型にしたけれど、交換時期になって予算的にMM型に戻した」という方もいらっしゃいます。はじめの一歩としては、MM型+交換針が手に入りやすいモデルを選び、「使いながら少しずつステップアップしていく」くらいの距離感がちょうど良いと感じています。
3. 針圧とセッティングで音はさらに変わる
針先やカートリッジの種類だけでなく、「針圧」や「アームの調整」も、音の印象に大きく関わってきます。針圧とは、針がレコードの溝にかける重さのことで、重すぎると溝を傷め、軽すぎると音飛びや歪みの原因になります。
ELANでも、新しいカートリッジを導入する際には、推奨針圧の範囲の中で少しずつ重さを変えながら、どこで音が一番自然に抜けていくかを何度も聴き比べています。「セッティングだけで、同じ針でもこんなに音が変わるのか」と驚かれるお客様も多く、カートリッジの世界の奥深さを知るきっかけにもなっています。
4. ELANで体験しながら選ぶという楽しみ方
文章だけではどうしても限界がありますので、もし名古屋近郊にお住まいであれば、ぜひ実際にELANの音を聴きにいらしてください。通常の針式プレーヤーに加え、当店では針を使わずレーザー光で溝を読み取る「レーザーターンテーブル」も導入しており、針との違いを体験していただくことも可能です。
あるお客様は、まずはレーザーターンテーブルでお気に入りの一枚を聴いていただき、そのあとでMM型の丸針、楕円針と順番に聴き比べをされました。終わった後、「どれが正解というより、その日の気分で選びたくなる」と話されていて、その言葉がとても印象に残っています。レコードと針の世界は、一度きりの正解を探す旅ではなく、「そのときどきの自分に合う音」を見つけ続ける楽しみなのかもしれません。
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