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2026年02月10日

音楽と香りの相性――ライブ喫茶ELANが考える、耳と鼻で楽しむ空間づくり

音楽と香りは、一見まったく別の世界のように思えるかもしれませんが、実はどちらも「空間の雰囲気」や「心の状態」を大きく左右する、とても近い存在です。名古屋・熱田区のライブ喫茶ELANとして、音楽とコーヒーの香りにこだわってきたお店目線で、「音楽と香りの相性」をやさしく、しかしできるだけ科学的な視点も交えながらお話していきます。


音楽と香りはなぜ「相性がいい」と感じるのか

音楽と香りの相性を考えるとき、いちばんのポイントは「どちらも、理屈より先に感情に働きかける」というところです。耳から入る音楽と、鼻から入る香りは、どちらも脳の中でも感情をつかさどる部分と深くつながっていて、「なんとなく落ち着く」「なぜか懐かしい」といった感覚を呼び起こしやすい刺激だといわれています。

たとえば、コーヒーの香りをかいだ瞬間に、昔通っていた喫茶店や、学生時代に友人と過ごした時間をふと思い出したことはないでしょうか。あるいは、若いころによく聴いていた音楽が、イントロの数秒だけで一気に当時の情景をよみがえらせてくれる、という経験も多くの方がお持ちだと思います。

ライブ喫茶ELANの店内には、往年の名曲を収めたレコードが所狭しと並んでいて、その一枚一枚が「ある時代の空気」を閉じ込めたタイムカプセルのような役割を果たしています。そこに一杯ずつ丁寧に淹れたコーヒーの香りが重なると、音楽と香りが一緒になって、お客様の記憶や感情にそっと触れるような不思議な時間が生まれます。

科学的な言葉でいうと、音楽と香りはどちらも「感情記憶」を刺激しやすい感覚刺激です。感情記憶というのは、単に出来事を覚えているというより、「楽しかった」「さみしかった」といった感情とセットになった記憶のことです。この感情記憶が刺激されることで、私たちは「この空間、なんだか居心地がいいな」と感じるのだと考えられています。

ELANでは、この「感情記憶」を大切にしたいと考えています。たとえば、常連のお客様がよく聴かれるジャズのレコードを、その方がお店に入ってこられたタイミングでそっとかけ、同時にいつものブレンドをドリップすることがあります。音楽と香りがその方だけの「いつもの組み合わせ」として積み重なっていくことで、お店そのものが一人ひとりにとっての「帰ってこられる場所」になれたらうれしい、と日々思いながら営業しています。


脳と感覚のしくみから見る「音楽と香り」

ここからは、もう少しだけ科学的な視点から、音楽と香りがどのように脳に働きかけるのかを見ていきます。難しい専門用語も出てきますが、できるだけかみくだいて説明しますので、気楽に読み進めていただければと思います。

まず、香りを感じる仕組みについてです。私たちがコーヒーの香りを「いい香りだな」と感じるとき、鼻の奥にある「嗅細胞(きゅうさいぼう)」というセンサーが、空気中の香り成分をキャッチしています。この信号は「嗅球(きゅうきゅう)」という部分を経由して、脳の中でも特に感情や記憶と深く関わる「扁桃体(へんとうたい)」や「海馬(かいば)」と呼ばれる場所へと伝わります。

一方、音楽は耳でとらえられてから「聴覚野(ちょうかくや)」と呼ばれる場所で処理され、その後、やはり感情に関わる脳の領域と結びついていきます。このとき、リズムやメロディ、ハーモニーの違いによって、「落ち着く」「ワクワクする」「切なくなる」といった感情が生まれやすくなります。

ここで重要なのは、香りと音楽が、それぞれ別々のルートで脳に入ってきながらも、最終的には「感情」や「記憶」をつかさどる領域で出会っている、という点です。つまり、コーヒーの香りと音楽は、脳の中で一緒に「体験」として結びつきやすいのです。

ELANの店主としても、この「結びつき」は日々の営業で強く感じています。たとえば、あるお客様が「学生時代に、試験勉強の前はいつもロックを大音量で聴きながら缶コーヒーを飲んでいた」とお話しされていたことがありました。その方は、今は仕事帰りにELANでゆったりとジャズを聴きながら深煎りのコーヒーを楽しまれていますが、「あの頃を思い出しながらも、今は少し落ち着いた自分を感じられて心地いい」と笑っていらっしゃいました。

科学的には仰々しい言葉になってしまいますが、要するに「感情と結びついた記憶」は、音楽と香りによって優しく呼び起こされることが多いのです。そのため、音楽喫茶やライブ喫茶のような空間では、どんな香りを漂わせるか、どんな音を鳴らすかが、お客様一人ひとりの体験を大きく左右するといえます。


コーヒーの香りと音楽のテンポの関係

ここからは、ライブ喫茶ELANとしていちばん身近な「コーヒーの香り」と「音楽のテンポ」の関係について、お店での実感も交えながらお話しします。テンポというのは、音楽の速さのことです。

一般的に、ゆったりとしたテンポの音楽は心拍数を落ち着かせ、リラックスしやすい状態をつくるといわれています。反対に、テンポの速い音楽は気持ちを高揚させたり、集中力を高めたりする方向に働くことが多いとされています。

コーヒーの香りにも、似たような「役割の違い」があります。たとえば、浅煎りのコーヒーは、フルーティーで華やかな香りが特徴で、気分を明るくしてくれるような印象を持たれやすいです。中煎りや深煎りになると、チョコレートやナッツのような香ばしさ、ビターなニュアンスが立ってきて、落ち着いた雰囲気を演出しやすくなります。

ELANでは、時間帯や店内の雰囲気に合わせて、かけるレコードのテンポと、提供するコーヒーの特徴をさりげなく合わせることがあります。たとえば、午前中や昼下がりには、軽快なジャズやボサノバとともに、酸味が心地よい浅煎り寄りのブレンドをおすすめすることが多いです。一方、夜の少し遅い時間帯には、バラードやスローテンポのボーカルものに、深煎りのコクのある一杯を合わせると、お客様の表情が自然とやわらいでいくのを感じます。

ある日のこと、仕事帰りに立ち寄られたお客様が「今日は頭を切り替えたいから、少しシャキッとする一杯と音楽がいいな」とおっしゃいました。そのときは、テンポのやや速いピアノトリオのレコードをかけながら、香りの立ち方が軽やかな中浅煎りのコーヒーをお出ししました。しばらくしてから「不思議ですね、音と香りでこんなに気分が変わるとは思わなかった」と嬉しそうに話してくださり、こちらも印象に残っています。

科学的に見れば、テンポの違いが心拍数や自律神経に影響し、焙煎度や香りの質が心理状態に作用していると考えられます。しかし、難しいことを考えなくても、「今日は軽やかな気分になりたいから、明るい音楽と華やかな香りのコーヒーを」といった直感的な選び方で、十分にその相性を楽しんでいただけるのではないかと思います。


香りと音楽が生み出す「時間の質」

同じ一時間でも、過ごし方によって「体感時間」は大きく変わります。好きな音楽を聴きながら、好きな香りに包まれているときは、時間があっという間に過ぎる一方で、落ち着かない環境では一分一秒が長く感じられることもあります。

音楽と香りは、この「時間の質」を変える力を持っています。ゆったりとしたピアノのインストゥルメンタルと、深煎りコーヒーの落ち着いた香りの組み合わせは、心のペースをゆっくりにして、「せっかくの休憩時間をちゃんと味わえた」と感じさせてくれます。反対に、軽快なスイングジャズと爽やかな香りのブレンドは、「よし、もうひと頑張りしよう」という前向きなエネルギーをくれることがあります。

ELANでは、店内の広く落ち着いた空間に、レコードならではのあたたかい音を満たし、同時にハンドドリップで淹れたコーヒーの蒸気が、ふわりとカウンターから客席へ広がっていきます。レコードのジャケットが並ぶ光景も相まって、お客様から「ここに来ると、時間の流れ方が家や仕事場と違って感じられる」と言っていただくことがあります。

ある常連のお客様は、休日の午後になると、必ずお気に入りのレコードを一枚持って来店されます。「このアルバムのB面を聴きながら、ゆっくりとコーヒーを飲む時間が、一週間の中でいちばん贅沢な時間です」とおっしゃってくださったことがありました。その方にとって、その一時間は単なる「空き時間」ではなく、「心を整えるための大切な儀式」のような意味を持っているのだと思います。

科学的な言葉を使うなら、音楽と香りが一緒になって「主観的時間(体感時間)」を変化させている、とも表現できるでしょう。ただ、お店として大切にしているのは、その難しい言葉ではなく、お客様の「ここにいる間は、時間を忘れて過ごせた」という一言です。音楽と香りの相性は、その一言の背景に、静かに、しかし確かに存在していると感じています。


お店で実践している「音楽と香り」の楽しみ方

最後に、ライブ喫茶ELANがお店の中で実際に行っている、音楽と香り(主にコーヒー)を楽しむための工夫を、いくつかご紹介します。ご自宅でのコーヒータイムや、仕事場でのBGM選びのヒントにもなればうれしいです。

まず、お店では次のようなポイントを意識しています。

  • 時間帯によって、選ぶレコードのジャンルやテンポを変える
  • コーヒーの焙煎度と、店内に流す音楽の雰囲気をそろえる
  • ライブやイベントの前後で、香りと音の「緩急」をつける
  • お客様の好みや、その日の様子を見ながら、音量や選曲を調整する

たとえば、昼間の比較的静かな時間帯には、ボーカル少なめのジャズやインストゥルメンタルを中心に選び、仕事や読書をされている方が集中しやすいような音の環境を整えます。そのときにお出しするコーヒーは、香りが立ちやすい中煎りのブレンドが活躍します。明るすぎず、かといって重たすぎない、ほどよくバランスの取れた一杯は、静かなBGMと相性がよく、長く滞在しても疲れにくい組み合わせです。

夕方以降、少しずつ店内の照明を落としていく時間帯には、ボーカルものや、少し情緒を感じるレコードを選ぶことが増えます。この時間には、深煎りでコクのあるコーヒーや、カフェオレなどミルクを合わせたドリンクをおすすめすることが多いです。音楽の厚みと香りの深さが重なり合い、「今日一日の締めくくりに、いい時間を過ごせた」と感じていただけるよう心がけています。

ライブやイベントの日には、また少し空気が変わります。開演前の少しざわついた時間には、出演者のジャンルに合わせて会場の期待感を高めるようなBGMを選びつつ、香りの印象がくっきりと立つコーヒーをお出しします。そして、終演後にはテンポを落としたレコードに切り替え、余韻を楽しんでいただけるよう、やわらかな香りの一杯でクールダウンしていただく、という流れが自然とできあがってきました。

このように書くと少し構えてしまうかもしれませんが、ご自宅でもできることは意外とシンプルです。たとえば、

  • 朝、仕事前に浅煎りコーヒーと明るいポップスを合わせて、気持ちを切り替える
  • 休日の午後には、読書のおともに中煎りコーヒーと静かなジャズを選ぶ
  • 夜寝る前の一杯(カフェインレスならなお安心)には、スローテンポのピアノ曲を流す

といった具合に、そのときの自分の状態やなりたい気分に合わせて、香りと音楽をセットで選んでみると、新しい楽しみが生まれてくるはずです。

ライブ喫茶ELANとしては、これからも名古屋・熱田区の一角で、「音楽とコーヒーを楽しむ隠れ家」として、お客様にとって心地よい時間をお届けしていきたいと考えています。最高の音質でレコードを再生できるレーザーターンテーブルや、こだわりの音響設備とともに、香り高い一杯をご用意してお待ちしておりますので、ぜひ「音楽と香りの相性」を、五感で体験しにいらしてください。

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Cafe & Music ELAN 

やわらかな音と、香り高い一杯を。

名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
 営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分

ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います

あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております