NEWS
2026年02月19日
音階の種類とドレミの起源──コーヒー片手に読む音楽のお話
名古屋・熱田区のライブ喫茶ELANです。今日は「音階の種類」と「ドレミの起源」について、コーヒー片手にゆったり読んでいただけるようなお話をお届けします。店内で流れるレコードの音に、少しだけ「理屈」を添えて楽しんでいただけたらうれしいです。
「ドレミ」は誰が作った?音階のはじまりの物語
「ドレミファソラシド」という言葉、当たり前のように使っていますが、「いったい誰が決めたんだろう?」と思ったことはありませんか。実はこれは、約1000年前のイタリアの修道士・音楽教師、グイード・ダレッツォという人物にまでさかのぼるお話です。
グイードは、当時の教会で歌われていた「グレゴリオ聖歌」を、いかに効率よく覚えてもらうかを考えていました。グレゴリオ聖歌は、楽譜も今のように整っておらず、歌い手は膨大な曲を暗記しなければならず、とても大変だったと言われています。そこで彼は、「聖ヨハネ賛歌(Ut queant laxis)」という賛美歌の歌詞とメロディに着目しました。
この賛歌の各フレーズは、1行ごとに少しずつ高い音から始まる構造になっていました。
- Ut
- Re
- Mi
- Fa
- Sol
- La
というふうに、歌詞の頭に来る音節を、そのまま「音の名前」として使うことを思いついたのです。
こうして生まれたのが、最初の「Ut, Re, Mi, Fa, Sol, La」という6つの階名でした。まだこの時点では「シ」と「ド」はありませんでしたが、やがて「Sancte Johannes(聖ヨハネ)」の頭文字を取って「Si(シ)」が加わり、「Ut」は発音しやすいように「Do(ド)」へと変化していきました。これが、今私たちが使っている「ドレミファソラシ」の元祖だとされています。
ELANでも、クラシックのレコードをかけていると、お客様から 「ドレミってイタリア語なんですよね?」 と聞かれることがあります。 そのときには、 「はい、もともとはお坊さんが歌を覚えやすくするためのアイデアだったんですよ」 と、こんな小さな音楽史の話をしながら、コーヒーのおかわりをお持ちすることがよくあります。
「ドレミ」は、ただの記号ではなく、祈りの歌から生まれた”覚えやすさ”の工夫だった。そう思いながらレコードを聴いてみると、同じメロディも少し違って聞こえてくるかもしれません。
「音名」と「階名」ってなに?ドレミとABCの違い
ここで少し専門用語を整理しておきます。音楽では、「同じ『ド』でも2種類の呼び方」が登場します。
- 音名:音そのものの名前(C・D・E…や、ハ・ニ・ホ…など)
- 階名:音階の中での役割を示す名前(ド・レ・ミ…)
という区別があります。
たとえば、ピアノで「白鍵だけ」を弾いたとき、どのキーからスタートするかで「ド」の位置は変わります。
- ハ長調(Cメジャー):Cが「ド」、Dが「レ」、Eが「ミ」
- ト長調(Gメジャー):Gが「ド」、Aが「レ」、Bが「ミ」
というように、「階名」は調(キー)に合わせて移動します。一方で、「C・D・E」は、どんな調でも変わらない「音名」です。
日本では、学校の歌やソルフェージュでは「ドレミ」を使い、コードネームや理論書では「C・D・E」を使う、という使い分けがされています。ELANでも、ジャズ系のお客様は「今のコード進行、CからFに行くところがいいね」とおっしゃいますし、クラシック出身の方は「ドからファに行く跳躍が心地いい」と表現されることがあります。どちらも指している音は同じなのですが、視点が少し異なるのが面白いところです。
ある日、当店でピアノを弾いていたお客様同士が、こんな会話をしていました。 「そこ、レから始めると雰囲気変わりますよ」 「え、レ? あ、Dのことね!」 「そうそう、Dから始めると急に”物悲しい”感じになります」
同じ音を「レ」と呼ぶか「D」と呼ぶかで、頭に浮かぶイメージや理屈の立て方が変わってくる。そんな小さな違いを感じながら、ステージ上の音を味わっていただけたらと思っています。
長調と短調の音階──「明るい」と「切ない」はどう生まれる?
音階(スケール)とは、一定のルールで並べられた音の階段のことです。その中でも、私たちが日常的によく耳にするのが「長調」と「短調」です。
- 長調:明るい、前向き、元気な印象になりやすい音階
- 短調:切ない、物悲しい、しっとりした印象になりやすい音階
と説明されることが多いです。
長調と短調を分けている基本的な要素は、「全音」と「半音」の並び方です。
- 全音:鍵盤で隣の白鍵と白鍵の間に黒鍵が1つ入る幅
- 半音:すぐ隣の鍵盤同士の幅
ハ長調(Cメジャー)の場合、「ドレミファソラシド」を鍵盤でたどると、
- ド–レ:全音
- レ–ミ:全音
- ミ–ファ:半音
- ファ–ソ:全音
- ソ–ラ:全音
- ラ–シ:全音
- シ–ド:半音
という並びになっており、これが「全全半全全全半」という長調の基本パターンです。一方、イ短調(Aマイナー)は、同じ白鍵だけを使いながら、「ラ」から始めて「ラシドレミファソラ」と並べることで、「全半全全半全全」という別のパターンになります。
つまり、使っている音は同じでも、「どこからスタートするか」で性格が変わるのが長調と短調の大きな特徴なのです。
ELANでよくかけるジャズのスタンダードにも、長調と短調の切り替わりが印象的な曲がたくさんあります。たとえば、あるお客様が 「この曲、途中で急に夕暮れみたいに切なくなりますね」 と話してくださったことがありました。 その部分だけ、メロディが短調寄りの音階に寄り添うように書かれていたのです。
音階のパターンを少し知っていると、「なぜここで気持ちが揺さぶられるのか」が、ほんの少しだけ”見える化”されます。もちろん、理屈を知らなくても音楽は楽しめますが、コーヒーを飲みながら「今、長調から短調に変わったな」なんて意識してみるのも、音楽喫茶ならではの楽しみ方かもしれません。
教会旋法から生まれた多彩なモード──ドリア・フリギア・リディア…って?
「ドレミ」の原型が生まれた中世ヨーロッパでは、今の長調・短調とは違う「教会旋法(モード)」という考え方が使われていました。教会旋法とは、簡単に言うと「ドレミファソラシドという音の並びを、どの音からスタートさせるかで生まれる別々の音階」のことです。
代表的な教会旋法には、
- ドリア旋法
- フリギア旋法
- リディア旋法
- ミクソリディア旋法
- エオリア旋法
などがあり、それぞれに独特の雰囲気があります。例えば、
- ドリア:短調に似ているけれど、少し力強さや前向きさも感じるスケール
- フリギア:東洋的で不思議な、緊張感のある響き
- リディア:明るさの中に浮遊感がある、少し夢見心地な響き
といったイメージで語られることが多いです。
これらの教会旋法は、グレゴリオ聖歌などの聖歌で使われてきましたが、16〜17世紀頃から次第に長調と短調の体系に置き換えられていきました。その一方で、エオリア旋法やイオニア旋法は、後に現在の短音階・長音階へとつながっていく重要なステップでもありました。
現代のジャズやポップスでも、「モードジャズ」というジャンルがあるように、教会旋法に由来するモードは今でも多用されています。ELANでも、モダンジャズのレコードをかけているときに、お客様から 「この曲、コードはあまり動かないのに、なんだか景色が変わっていくように感じます」 と言われることがあります。 それは、コード進行よりも「モード(音階)の色合い」をじっくり味わわせるような曲だからかもしれません。
ある夜、ギタリストの方が飛び入りで演奏してくださったとき、「次はドリアっぽい感じでやります」と一言だけ告げて、落ち着いたブルージーなフレーズを延々と紡いでくれたことがありました。終演後にお客様から 「ドリアってなんですか?」 と質問され、店内でささやかな「教会旋法講座」が始まったのも、ELANらしいひとコマでした。
日本の音階の世界──民謡音階・琉球音階・都節・律音階
西洋の音階が「ドレミファソラシド」という7音を中心に発展してきたのに対し、日本の伝統音楽では「5つの音からなる五音音階」が大きな役割を果たしてきました。
民族音楽学者・小泉文夫は、日本の伝統的な音階を主に以下の4種類に整理しています。
- 民謡音階
- 琉球音階
- 都節音階
- 律音階
これらはいずれも「五音音階」の一種で、それぞれに独特の情緒を持っています。
たとえば、
- 琉球音階:沖縄の民謡で多く使われる音階で、「ドミファ/ソシド」と分けられる構造を持ちます。
- 民謡音階:本州・四国・九州を中心とした民謡によく見られるスケールで、素朴で力強い響きが特徴です。
- 都節音階:箏曲「さくらさくら」に代表される、少し哀愁を帯びた和風の響きが印象的です。
- 律音階:雅楽などにも関わる、澄んだ印象の和風スケールです。
琉球音階は、「ドからファ」と「ソからド」という4度の間に、どこに音を置くかで説明される「テトラコルド」という考え方で分析されます。ドからファ、ソからドという2つのテトラコルドを重ね、その中の位置関係によって、民謡音階・律音階・都節音階・琉球音階に分類できるというわけです。
ELANの店内でも、ときどき三味線や和楽器関連のレコードをかけることがあります。ある日、常連のお客様が 「この曲、どこか懐かしいのに、具体的な記憶とは結びつかない不思議な感じがします」 とおっしゃいました。 それは、おそらく「日本人の耳が長年慣れ親しんできた五音音階」の響きが、どこか身体の奥にしまってあった記憶をそっと揺らしているのかもしれません。
西洋の7音音階と、日本の5音音階。どちらも、人の生活や言葉、風景と深く関わりながら発展してきた音の並び方です。ELANでは、そうしたさまざまな土地の音階が、1枚1枚のレコードの中で息づいています。
音階の違いがもたらす「聴こえ方」の変化と、ELANでの楽しみ方
音階の種類が変わると、同じ「ドレミ」の並びでも、驚くほど印象が変わります。たとえば、
- ハ長調の「ドレミファソラシド」は、何も足さない、素直で開放的な響き
- イ短調の「ラシドレミファソラ」は、同じ白鍵でも、少し物悲しく感じる並び
- ドリア旋法の「レミファソラシドレ」は、ブルージーで内省的な雰囲気
- 琉球音階の「ドミファソシド」は、どこか南国の風を思わせる独特の明るさ
といった具合です。
当店のレーザーターンテーブルは、レコードの溝を針ではなく「光」で読み取るプレーヤーで、針では拾いきれない細かな音まで再現できる機材です。名古屋でも有数の高音質再生が可能で、音階のわずかな違いや、和音の濁り具合の差まで、非常にクリアに感じていただけます。
ある日の午後、クラシックギターのソロレコードを流していたときのこと。お客様がコーヒーを飲みながら、 「さっきのトラックと今のトラック、何が違うんでしょう。どちらも静かな曲なのに、今のほうがずっと寂しく聴こえます」 と首をかしげていらっしゃいました。 実は、前のトラックは長調ベース、次のトラックは短調に加えて、途中にドリア旋法的なフレーズが入っていたのです。そこで、音階の仕組みをお話ししながら、もう一度その2曲を続けてかけてみました。 「本当だ、同じギターでも全然景色が違って見えますね」 と、少し驚いたような顔をされていたのがとても印象的でした。
ELANでの楽しみ方として、こんな聴き比べもおすすめです。
- 長調と短調の曲を続けて聴いて、気持ちの変化を味わってみる
- 西洋のクラシックと、日本の民謡や童謡を聴き比べて、音階の違いを感じてみる
- ジャズのモード曲で、「コードがあまり動かないのに景色が変わる」不思議さを楽しむ
当店には、ジャンルも時代もさまざまなレコードが数多く並んでいます。リクエストをいただければ、可能な限り近い雰囲気の盤をおかけしますので、「明るい長調の曲が聴きたい」「日本の古い音階が感じられるものありますか?」と、気軽に声をかけてください。
コーヒーの焙煎度合いによって香りやコクが変わるように、音階によっても音楽の味わいは大きく変化します。深煎りのコーヒーと短調のジャズ、浅煎りのコーヒーと長調のボサノヴァなど、組み合わせを楽しんでいただけるのも、ライブ喫茶ならではの時間です。
さいごに──音階を知ると、音楽とコーヒーの時間がもっと豊かになる
「音階の種類」や「ドレミの起源」の話は、一見むずかしそうに聞こえるかもしれません。けれど、その根っこにあるのは「どうすれば歌を覚えやすくなるか」「どうすれば人の心に届くメロディを作れるか」という、とても素朴な問いです。グイード・ダレッツォの時代から、現代のポップスやジャズにいたるまで、人はいつも「音の並べ方=音階」に心を砕いてきました。
ELANは、そんな長い歴史をすべて踏まえることはできませんが、「一曲一曲の背景にある物語を、コーヒーと一緒に楽しんでいただきたい」という思いで、日々レコードを選んでいます。
「今日はなんだか明るい気分になりたい」 「少し静かに自分と向き合いたい」
そんなときには、長調や短調、日本の音階やモードなど、音階の色合いを意識しながら、気分に合う1枚を一緒に探してみましょう。
名古屋・熱田区外土居町の小さなライブ喫茶で、音とコーヒー、そしてその裏側にある音階の物語を、ゆっくり味わっていただけたら幸いです。
====================
Cafe & Music ELAN
やわらかな音と、香り高い一杯を。
名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分
ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います
あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております
