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2025年11月27日
レコードクリーニングの基本とおすすめ道具
ライブ喫茶ELANがお届けする「音を守る」お手入れ術
レコードの音は「日々のお手入れ」から生まれます
ライブ喫茶ELANの店内には、年代もジャンルもさまざまなレコードが、ところ狭しと並んでいます。ジャズの名盤からロックの名作、思い出の映画音楽まで、どの一枚にも「物語」と「時間」が詰まっています。その物語を、できるだけ当時の息づかいのままお届けするために、当店ではレコードのクリーニングをとても大切にしています。
初めて来店されるお客様の多くが、「同じタイトルなのに、家で聴くよりこちらの方が音が立体的に聴こえる」とおっしゃいます。音の良さの理由には、こだわりの機材やレーザーターンテーブルもありますが、実は”地味だけれど欠かせない”のが、レコードそのもののお手入れです。
「レコードクリーニング」と聞くと、専門店の仕事という印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、基本の考え方と道具の選び方さえ押さえれば、ご自宅でも十分に実践できます。この記事では、ELANで日々行っているお手入れの考え方をベースに、初心者の方でも今日から真似できるレコードクリーニングの基本と、おすすめの道具をご紹介します。
レコードクリーニングが音を変える理由
レコードには、音の情報が「溝」として刻み込まれています。この溝はとても細かく、人間の髪の毛より細いレベルでうねっています。その細かい溝の振動を針がなぞり、電気信号に変えて、アンプやスピーカーを通じて音として鳴らしているのです。
この「溝」が汚れてしまうと、次のようなトラブルが起きやすくなります。
- 再生時に「プツッ」「パチッ」というノイズが入る
- 音がぼやけて輪郭があいまいになる
- 高音がこもったように聴こえる
- 極端な場合、針飛びや再生不良が起きる
汚れの正体は、ホコリ、タバコの煙、皮脂、カビ、そして静電気によって吸い寄せられた微細なゴミなど、さまざまです。特にレコードは静電気を帯びやすく、一度ホコリが付くとなかなか離れてくれません。「棚から久しぶりに取り出したら白っぽく曇っていた」という経験がある方も多いのではないでしょうか。
ELANでも、常連のお客様から「昔父が聴いていたレコードを持ってきたのだけれど、ノイズが多くて…」と相談されることがあります。見た目はそれほど傷んでいなくても、表面に細かいホコリとカビが付着していることが多く、適切なクリーニングを行うと、驚くほど音がよみがえることがあります。「こんなに音が入っていたんですね」と目を丸くされる瞬間は、スタッフにとっても嬉しいひとときです。
レコード盤の寿命という意味でも、クリーニングはとても重要です。汚れたまま何度も針を落としていると、針と一緒にゴミが溝を削ってしまい、元には戻らないダメージにつながります。大切な一枚を長く楽しむためには、「再生前のお手入れ」が何よりの保険になるのです。
自宅でできるレコードクリーニングの基本手順
ここからは、難しい道具を使わずに、ご自宅でも実践できる基本的なクリーニングの手順をご紹介します。ELANでも日々行っている工程を、初心者向けに少しアレンジした内容です。
1. 準備と盤面チェック
まずはレコードに触れる前に、手を洗って清潔にします。手の皮脂も盤面の汚れにつながるため、意外とここが大切なポイントです。指輪や腕時計、ブレスレットなど、盤に当たって傷になりそうなものは外しておきましょう。
レコードをジャケットから出したら、強すぎないライトの下で盤面を斜めから眺めてみます。
- ホコリがうっすら乗っているだけなのか
- 指で触れたような跡があるのか
- 白い点状のカビが出ているのか
状態を把握することで、「ブラシだけで十分なのか」「液体クリーナーまで使うべきか」が見えてきます。
2. レコードブラシでホコリを払う
最初の一歩は、レコードブラシでのドライクリーニングです。カーボンファイバー製のブラシが一般的で、細かい繊維が溝の中まで入り込み、ホコリを掻き出してくれます。同時に、静電気の除去にも役立ちます。
やり方はシンプルです。
- ターンテーブルにレコードを乗せる
- 回転させながら、ブラシを軽く盤面に置く
- 中心から外側へ、溝に沿ってやさしく動かす
力を入れすぎず、「レコードの重さプラスα」くらいの感覚で触れるのがコツです。ゴシゴシこすると、かえってホコリを溝に押し込んでしまうことがあります。ELANでは、再生の前後に必ずこのブラッシングを行い、「再生前に一度」「片付ける前に一度」の”二度払い”を習慣にしています。
3. 頑固な汚れには専用クリーナーを
ブラシだけでは落ちない汚れもあります。たとえば、昔の所有者が直接盤面を触ってついた皮脂、長年の湿気が原因のカビ、飲み物が飛んだあとなどです。こうした汚れには、レコード用のクリーニング液(スプレータイプやボトルタイプ)を使います。
使うときのポイントは次の通りです。
- 液体は直接盤に吹きかけず、マイクロファイバークロスにしみ込ませる
- 盤面の溝に沿って、内側から外側に向かってやさしく拭く
- 最後に乾いたクロスで軽く乾拭きする
中央のレーベル部分は水分に弱いため、液体がかからないように細心の注意を払います。ELANの店主も昔、若いころに自宅でクリーニングしているとき、うっかりレーベルを濡らしてしまい、インクがにじんだ経験があるそうです。それ以来、ラベル保護用のカバーや専用の洗浄機を積極的に活用しています。
4. 針(スタイラス)のクリーニングも忘れずに
「レコードをいくら綺麗にしても、針が汚れていたら意味がない」とよくお伝えしています。針先には再生のたびに微細なホコリが付着していき、それが音質低下やノイズの原因になります。
針クリーナーには、
- ブラシタイプ
- ゲル状のパッドに針先をそっと乗せるタイプ
- 液体クリーナー+専用ブラシのタイプ
などがあります。ELANでは、ライブ開始前に必ず針のクリーニングを行い、特に繊細なジャズボーカルやピアノソロのレコードをかける前は念入りにチェックしています。
ELANおすすめのクリーニング道具と選び方
ここからは、実際にどんな道具を揃えればよいのか、種類ごとに紹介していきます。「全部いっぺんに揃える必要はありますか?」とよく聞かれますが、まずは基本セットから始めて、コレクションの枚数や予算に合わせて少しずつグレードアップしていくのがおすすめです。
レコードブラシ(ドライ用)
最初に用意したいのが、カーボンファイバー製のレコードブラシです。
選ぶポイントは、
- 繊維が細かく均一に並んでいるか
- 持ちやすい形状か
- 静電気の除去に配慮しているか
ELANでは、オーディオテクニカやNAGAOKAといった国内メーカーのブラシをよく使っています。安心感があり、交換もしやすく、初めての一本としても心強い存在です。
クリーニングクロス
液体クリーナーとセットで使うのが、マイクロファイバー製のクロスです。
- 眼鏡拭きのような、きめ細かな繊維のもの
- 糸くずが出ないもの
- 洗って繰り返し使えるもの
を選びましょう。タオル地やキッチンペーパーは、一見やわらかくても、レコードの溝にとっては「粗すぎる」ことが多く、細かなキズの原因になります。ELANでも「もったいないから」と使い古しのシャツを布代わりにした結果、レコードにヘアライン状の傷が入ってしまった、というお客様のエピソードをよく耳にします。
クリーニングスプレー・液体クリーナー
レコード専用クリーナーは、アルコール成分を抑えたタイプや、帯電防止成分を含んだタイプなど、いくつか種類があります。
選ぶときのポイントは、
- レコード専用と明記されているか
- 強い香料が入っていないか
- 使い方や希釈方法がわかりやすく書かれているか
です。慣れないうちは、説明書どおりの方法を守るのが一番安心です。自己流の配合を試すと、盤が白く曇ってしまったり、ラベルにシミができてしまうことがあります。
レコード洗浄機(本格的にケアしたい方へ)
ある程度コレクションが増えてきた方、長年放置していたレコードをまとめて復活させたい方には、レコード洗浄機も選択肢のひとつです。
種類としては、
- 手動で回しながら洗浄液につけるタイプ
- 吸引機能で液体と汚れを一気に吸い取るタイプ
- 超音波の振動で溝の奥の汚れまで落とすタイプ
などがあります。
ELANのオーナーも、昔はひたすら手作業でクリーニングしていましたが、あるとき思い切って超音波式クリーナーを導入しました。長年ノイズに悩まされていた古いジャズの名盤をクリーニングしたところ、「ここまで変わるのか」と驚くほど音の透明感が増し、ホーンの余韻やベースの輪郭がはっきりと浮かび上がったのを今でも鮮明に覚えているそうです。
もちろん洗浄機はそれなりの投資になりますが、「お気に入りのレコードを一生ものとして付き合っていきたい」という方にとっては、頼もしい相棒になってくれます。
針クリーナー・アクセサリー類
最後に、地味ながら重要なのが針クリーナーやレーベル保護用のアクセサリーです。
- 針用ブラシやゲルパッド
- レーベルを覆うためのシール・カバー
- 静電気防止のインナースリーブ
などを組み合わせることで、日々のクリーニングがぐっと楽になります。ELANでは、忙しい時間帯でも短時間でしっかりケアできるよう、プレーヤーのそばにこれらの道具をまとめてセットにして置いています。「道具がいつも手の届くところにあること」が、習慣化の近道です。
初心者がやりがちなNG例と、そのリカバリー方法
ここでは、お客様から実際に寄せられる「やってしまいがちな失敗例」と、その対処法をご紹介します。もし身に覚えがあっても、落ち着いてできる範囲のケアからやり直してみましょう。
NG例1:ティッシュやタオルでゴシゴシ拭いてしまう
「汚れていたので、ついティッシュで強く拭いてしまった」という声はとても多いです。ティッシュやタオルは繊維が荒く、乾いた状態でこすると細かな傷が入りやすくなります。すべてが即座に「致命的なキズ」になるわけではありませんが、長期的には音質劣化の原因になります。
対処法としては、
- それ以上同じ方法でこすらないこと
- 以後はマイクロファイバークロス+専用クリーナーへ切り替えること
- 気になる場合はクリーニングマシン導入店でのメンテナンスを検討すること
が挙げられます。ELANに相談されたお客様のなかでも、洗浄機でクリーニングした結果、「気になっていたザラつきがだいぶ軽くなった」とホッとされていた方がいらっしゃいました。
NG例2:家庭用洗剤やアルコールを直接使用
「CDを拭くときの感覚で、ガラスクリーナーやアルコールを吹きかけてしまった」というケースもあります。これらは成分が強すぎる場合があり、レコードの素材やラベルの印刷部分にダメージを与える可能性があります。
もし使ってしまった場合は、
- すぐに水で薄めた中性洗剤(もしくは専用クリーナー)で拭き直す
- その後、乾いたクロスで十分に水分を拭き取る
- 二度と同じ洗剤を使わない
ことを徹底しましょう。わからない場合は無理に自宅で色々試さず、オーディオショップや専門店に相談するのもひとつの方法です。
NG例3:湿ったままジャケットに戻す
クリーニング直後の半乾き状態で、そのままインナースリーブやジャケットに戻してしまうと、カビの温床になってしまいます。長年押し入れにしまっていたレコードを開けると、独特のカビ臭が漂っている…というのは、たいていこのパターンです。
対処法としては、
- クリーニング後は、風通しのよい場所でしっかり乾かす
- 完全に乾いた後に、新しいインナースリーブに入れ替えてから戻す
- カビ臭が強い場合は、ジャケット自体も別途ケアする
といった手順が有効です。ELANでも、買取で入ってきたレコードをそのまま棚に並べることはまずありません。必ず一度棚とは別のスペースで状態をチェックし、必要に応じて盤とジャケットのクリーニングを行ってから、お客様の目に触れる場所に出すようにしています。
レコードを守る「保管」と「クリーニングのタイミング」
どれだけ丁寧にクリーニングしても、保管環境が悪ければ、またすぐに汚れてしまいます。ここでは、ELANでも意識している保管のポイントと、クリーニングの頻度について触れておきます。
保管環境のポイント
- 直射日光の当たらない場所に置く
- 高温多湿を避け、できれば温度20℃前後・湿度40〜60%程度を目安にする
- レコードは必ず「縦置き」で、ぎゅうぎゅう詰めにしない
- インナースリーブは静電気防止タイプに交換する
特に日本の夏場は湿度が高く、カビのリスクが上がります。湿度が気になる方は、小さな除湿機や除湿剤を棚のまわりに置いておくと安心です。ELANでも、季節によってエアコンや除湿機の設定を細かく調整しながら、レコードと機材の両方を守っています。
クリーニングのタイミング
頻度の目安としては、
- 再生前にブラシでのドライクリーニング
- 目に見える汚れがなければ、液体クリーニングは数回再生に一度
- 長期間聴いていないレコードは、再生前に必ず状態をチェック
といったイメージで十分です。「あまり触らないほうがいいのでは?」と心配される方もいらっしゃいますが、正しい道具と方法であれば、”やさしく、こまめに”のほうがレコードには優しいと感じています。
より深いメンテナンスのために知っておきたいこと
基本的なクリーニングに慣れてきたら、さらに一歩進んだメンテナンスの知識も身につけておくと、レコードライフがより豊かになります。
盤質による汚れの違い
レコードには、プレス時期や製造国によって、盤質に違いがあります。1960年代のアメリカ盤は重量があり丈夫なものが多い一方、1970年代後半以降のものは軽量化が進み、表面が柔らかくなっている傾向があります。また、日本盤は総じて品質が高く、保管状態さえ良ければクリーニングも比較的簡単です。
逆に、ヨーロッパのプレスや、一部の廉価盤は表面がザラついていることもあり、クリーニングの際には力加減に注意が必要です。ELANでも、盤を手に取った瞬間の重さや手触りで、「この盤はやさしくいこう」と判断することがよくあります。
ジャケットのケアも忘れずに
レコードの保管において、ジャケットも大切な要素です。ジャケット自体が湿気を吸い込んでしまうと、中のレコードにも悪影響を及ぼします。特に紙製のジャケットは湿気に弱く、カビが生えやすい部分でもあります。
ジャケットのケアとしては、
- 外側をビニールカバーで保護する
- カビが生えてしまった場合は、乾いた布で軽く拭き取る
- どうしても匂いが取れない場合は、重曹を入れた袋と一緒に密閉容器に入れて数日置く
といった方法があります。ただし、ジャケット自体が貴重なアート作品でもあるため、無理に拭いたり洗ったりすると印刷が剥がれることもあります。迷ったときは専門店に相談するのが安心です。
季節ごとのメンテナンス習慣
日本は四季がはっきりしているため、季節に応じたメンテナンスも効果的です。
- 春:冬の間に溜まったホコリを一掃する大掃除のタイミング
- 夏:湿度管理を徹底し、カビ予防に注力
- 秋:涼しくなって乾燥が始まる前に、クリーニングと保管環境の見直し
- 冬:暖房による乾燥で静電気が増えるため、帯電防止スプレーやブラシの活用
ELANでも、梅雨入り前と秋口には、全レコードの状態をチェックし、必要に応じてクリーニングや保管場所の変更を行っています。こうした”季節の儀式”が、結果的にレコードの寿命を大きく延ばしてくれます。
クリーニングでよみがえる「音の記憶」
最後に、ELANで実際にあったエピソードをひとつご紹介します。
ある日、常連のお客様が一枚のレコードを大事そうに抱えて来店されました。それは、亡くなられたお父様が若いころに聴いていたというジャズの名盤でした。ご自宅のプレーヤーでかけてみたものの、ノイズが多くて最後まで聴き通せなかったそうです。
ELANのステージで、そのレコードを丁寧にクリーニングし、レーザーターンテーブルに乗せてみました。最初の数小節はまだ少しザラつきが残っていましたが、曲が進むにつれて、不思議なほど音がほどけていくように変わっていきました。トランペットのニュアンス、ピアノの余韻、ベースラインのうねりが立ち上がり、聴いている全員が、自然と演奏に引き込まれていきました。
曲が終わったあと、そのお客様は少し目を赤くしながら、「父が若いころに話していた”レコードの音”って、きっとこういうことだったんですね」とぽつりとおっしゃいました。レコードクリーニングは、単なる掃除ではなく、「その音に宿った時間や記憶を、もう一度いまに連れてくる作業」なのだと、あらためて気づかされた瞬間でした。
おわりに:ELANと一緒にレコードを育てていきましょう
レコードのお手入れに、完璧な正解はありません。レコードの状態、機材、部屋の環境、そして何より「どう聴きたいのか」によって、最適なやり方は少しずつ変わってきます。ただ一つ言えるのは、「やさしく、こまめに、楽しみながら」触れてあげるレコードほど、長くいい音で応えてくれるということです。
ライブ喫茶ELANでは、レコードのクリーニングや保管方法についてのご相談も、いつでも歓迎しています。「このやり方で合っているかな?」「このレコード、まだ復活できますか?」といった素朴な疑問がありましたら、コーヒーを飲みながら、ぜひ気軽に声をかけてください。お店のレコードも、お客様のレコードも、同じように大切な音楽の仲間として、これからも一緒に育てていけたら嬉しいです。
レコードは、単なる音楽メディアではなく、時代と人をつなぐ大切な宝物です。その音を守り、次の世代へと受け継いでいくために、日々のクリーニングという小さな習慣が、大きな意味を持っています。この記事が、皆様のレコードライフの一助となれば幸いです。
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あなたの今日が、少しやさしくなるように。
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