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2026年01月25日

コーヒーと音楽の相性|焙煎度×ジャンルのマリアージュ

音楽とコーヒーを楽しむ時間の豊かさ

静かにスピーカーから流れるベースの低音、淹れたての深煎りコーヒーの香り。

名古屋・熱田区の「ライブ喫茶ELAN」は、そんな時間を大切にしています。お客様によく聞かれるのが「音楽とコーヒーって本当に相性があるの?」という質問です。答えは、はっきりと「あります」。それも、焙煎度や豆の個性ごとに向いている音楽のジャンルがあるのです。

音は味覚と同じく”波”の芸術。苦味や酸味のバランスは、リズムやハーモニーに通じています。本記事では、ELANの店主としてこれまで多くのお客様と音楽を共有してきた経験をもとに、「焙煎度×音楽ジャンル」のマリアージュ(相性)について解説します。


深煎りコーヒー×ジャズ──沈み込むような時間を

深煎りの豆は、焙煎によって酸味が抑えられ、ほろ苦さやコクが際立ちます。その香ばしさと重量感は、ジャズの抱く”夜の余韻”と実によく合います。

たとえばアート・ブレイキーのドラムが刻むスウィングや、マイルス・デイヴィスのトランペットが吐く低く湿った音色。深煎りのコーヒーを口に含むと、その一音一音がより重みを増します。苦味が音の深さと共鳴し、心が落ち着くのです。

実際、夜にELANへいらっしゃるお客様の多くは「酸味の少ないブレンドを」と注文されます。照明を少し落とし、JBLのヴィンテージスピーカーからジャズのライブ盤を流す。その瞬間、コーヒーのビターな香りとスモーキーなトランペットが溶け合い、まるで自分の部屋の延長のような安らぎが訪れます。

音楽とコーヒーの相性を確かめる最初の一杯として、深煎りブレンド「ELANクラシック」がおすすめです。ジャズの即興のように、その日によって味も香りも少しずつ違います。


中煎りコーヒー×ボサノヴァ──軽やかな午後の風

中煎りは、酸味と苦味のバランスが最も取れている焙煎度。穏やかで透明感のある味わいは、ボサノヴァやアコースティックのサウンドがぴったりです。

ボサノヴァの名曲を流すと、不思議とコーヒーの香りが柔らかく感じられることがあります。空間を包むギターのリズムと、豆の香ばしい余韻が同じテンポで漂うからかもしれません。午後の光が差し込む窓際で、淡い酸味のコーヒーを一口。カフェミュージックではなく、”人の息づかいが感じられる生音”を聴くのがポイントです。

以前、お客様が「この味と音でブラジルに行ったような気持ちになった」と話してくださいました。中煎りの豆にボサノヴァを合わせることで、心までふわりと解きほぐされる――そんな感覚が生まれるのです。


浅煎りコーヒー×クラシック──澄みきった透明感の対話

浅煎りコーヒーは、軽やかな酸味と華やかな香りが魅力です。それはまるでクラシック音楽の中の”旋律の透明感”のよう。バッハやドビュッシーなど、整然とした構成と繊細なニュアンスを持つ楽曲と好相性です。

たとえば、朝の開店前にグランドピアノの調律をしているとき、店主の私は浅煎りのエチオピアを淹れます。柑橘のような香りが立ち上り、静寂の中でピアノのハンマーが弦を叩く音が響く。それだけで一日の始まりが整う気がします。

クラシック音楽は「構造を楽しむ音楽」とも言われます。浅煎りコーヒーもまた、豆の個性をそのまま味わうスタイル。焙煎による”装飾”を控えめにすることで、産地の違いがくっきりと浮かび上がります。音楽と同じく、静かな中に深い味わいがあるのです。


焙煎度ごとの「音の違い」を感じるコツ

「味と音って本当に関係するの?」と感じる方もいるかもしれません。それは、五感が密接につながっていることを体験していないだけかもしれません。

たとえば、深煎りの苦味は低音域の安定感に近く、中煎りの甘味と酸味のバランスは中音域のやわらかさに、浅煎りのフルーティーな香りは高音域の透明感に通じています。このように、音楽の帯域と味覚は呼応関係にあるのです。

実際、当店の音響設備は「レーザーターンテーブル」や真空管アンプなど、原音に忠実な再生を目指しています。針では拾えない微細な音まで再現するため、コーヒーの香気の変化と同じく、音の”余韻”まで感じ取れるのです。

この「余韻」を意識して聴くと、コーヒーの後味まで変わります。音と香り、両方のフェードアウトが同じタイミングで消えていくとき、心に小さな幸福感が残ります。


音楽ジャンル別・おすすめ焙煎度ガイド

初めての方にもわかりやすいよう、焙煎度と音楽ジャンルの組み合わせを整理してみましょう。

音楽ジャンル おすすめ焙煎度 味わいの特徴 おすすめシーン
ジャズ(モダン・ビバップ系) 深煎り コクと苦味が音の厚みに調和 夜のひととき、ウィスキー代わりに
ボサノヴァ、アコースティック 中煎り 軽やかでまろやか。後味すっきり 午後の読書や語らいに
クラシック(バロック〜印象派) 浅煎り 明るく繊細。香りが長く残る 朝のリスタートや集中時間に
ソウル・ブルース 深煎り 甘苦くスモーキー 雨の日や夜のリラックスタイムに
ロック、フォーク 中深煎り 力強さと親しみのあるバランス 休日の午後、仲間とのセッションに

このように、音楽と焙煎度を組み合わせるだけで、コーヒータイムが少し特別な体験になります。


ELANの音づくり──こだわりの音響設計

「なぜこの店の音はこんなに心地いいのですか?」

開店以来、何度もいただいた質問です。答えはシンプルで、「音楽を聴くための空間」として一から設計したからです。

ELANの壁には、吸音と反射のバランスを考えた素材を使っています。低音が籠もらず、高音がキンキンしない。その絶妙な響きを実現するために、開店前は何度も壁材のサンプルを貼り替えては音を鳴らし、耳で確かめる作業を繰り返しました。

スピーカーの配置にも理由があります。JBLのヴィンテージユニットを天井近くではなく、お客様の耳の高さに合わせて設置しています。音は上から降ってくるものではなく、目の前で演奏されているように届くべきだと考えているからです。

そして、当店の象徴ともいえるのが「レーザーターンテーブル」。通常のレコード針ではなく、レーザー光で溝を読み取る再生機です。針が溝を削ることがないため、貴重なオリジナル盤も傷めずに再生できます。さらに、針では拾いきれない微細な音の情報まで読み取るため、録音された当時の空気感がそのまま蘇るのです。

真空管アンプとの組み合わせで、デジタル音源にはない温かみのある音が生まれます。この「温かさ」が、深煎りコーヒーの香りと不思議なほど調和するのです。


豆との出会い──仕入れの旅で学んだこと

コーヒー豆の仕入れは、音楽でいえば「選曲」に似ています。どんなに良い音響設備があっても、かける音楽が悪ければ台無しになる。コーヒーも同じで、どれだけ丁寧に淹れても、豆の質が伴わなければ本当の味は出せません。

私が豆を選ぶときに大切にしているのは、「産地の空気が感じられるかどうか」です。以前、エチオピアの小さな農園を訪ねたことがあります。標高2,000メートルを超える高地で、朝霧に包まれながらコーヒーチェリーを手摘みする農家の姿を見ました。その風景を思い浮かべながら焙煎すると、不思議と豆が応えてくれる気がするのです。

ブラジルの農園では、ボサノヴァが生まれた土地の陽気さを肌で感じました。中煎りにしたときの軽やかな甘みは、あの太陽の記憶なのかもしれません。

仕入れ先との関係も、長い年月をかけて築いてきました。信頼できる商社やロースターと何度も対話を重ね、ELANの音楽に合う豆だけを厳選しています。「この豆はジャズに合いそうだ」「これはクラシック向きかな」と、届いた豆を焙煎しながら音楽を想像する時間が、実は店主としての密かな楽しみです。

音響も豆も、一朝一夕には完成しません。何年もかけて少しずつ調整し、ようやく今のELANの音と味ができあがりました。これからも「もっと良い音、もっと良い一杯」を追い求めていきたいと思います。

お客様との”音と香りの会話”

ELANで働いていて嬉しい瞬間は、お客様が音楽とコーヒーの相性を自分の言葉で語ってくださるときです。

たとえば、常連のAさんは「この深煎りとベースの音が、一緒に腹に響く感じがする」と言ってくださいました。また、別の日に来られた若いカップルは、浅煎りのコーヒーを飲みながら「このピアノの音、さっぱりした味と似てるね」と笑っていました。

音楽は”聴く”ものですが、コーヒーと一緒に楽しむと”語らう”ものにもなります。ELANのステージでは、生演奏のジャズやボサノヴァライブも定期的に行っています。その日の焙煎豆と音楽の組み合わせを提案するのも、実は小さな楽しみのひとつです。


音楽とコーヒーが共鳴する空間として

ELANという店名には、「優雅に、流れるように」という意味が込められています。店内を設計するときも、音が美しく響くよう壁の材質やスピーカーの位置にこだわりました。コーヒーも同じ。豆の焙煎から抽出方法まで、音楽のテンポと同じく”間”を大切にしています。

美味しいコーヒーを淹れることと、良い音を鳴らすこと。一見別の仕事のようでいて、実はどちらも「余白をどう使うか」に尽きるのです。音を詰め込みすぎず、香りを焦らず引き出すことで、訪れた人の心に静けさが生まれます。

これからもELANは、音楽とコーヒーが自然に溶け合う場所でありたいと思っています。お気に入りの一杯と一曲を見つけに、ぜひゆっくりとお立ち寄りください。

 

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Cafe & Music ELAN 

やわらかな音と、香り高い一杯を。

名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
 営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分

ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います

あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております