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2026年01月28日

ビニール盤の溝の深さで音が変わるって本当?

ビニール盤の溝の「深さ」だけで音が劇的に変わる、というよりも、「溝の深さ・幅・間隔・カッティングレベル(音量)」がセットで決まることで、結果として音が変わる、というのが実際のところです。

ライブ喫茶ELANとしても、「深い溝=いい音」という単純な話ではなく、再生時間や低音の量とのバランスの中で音作りがされている、ということをお伝えしたいです。


ビニール盤の溝ってそもそも何?

レコードの黒い面には、らせん状の「溝」が刻まれていて、この溝がそのまま音の波形を物理的に記録したものです。この溝の中を針(正確には「スタイラス」)がなぞりながら振動し、その振動がカートリッジで電気信号に変わり、アンプとスピーカーを通って音として私たちの耳に届きます。

この溝には、次のような情報が刻まれています。

  • 溝の左右への揺れ方(横方向の揺れ):音の「ステレオ情報」や音量の振れ幅
  • 溝の細かさ:音の高さ(高音・低音)
  • 溝の深さ・幅:特に音量や低音のエネルギー量

ステレオレコードでは、V字型の溝の左右の壁に左右チャンネルの情報が記録されており、片側の壁が左チャンネル、もう片側が右チャンネルを担当します。つまり、レコードの溝は「縦」「横」「左右の壁の傾き」までフルに使って、音の情報をギュッと詰め込んでいるわけです。


「溝が深いと音が良い」は本当?

お客様からもたまに「この盤、溝が深そうだから音が良さそうですね」と聞かれることがあります。たしかに、ある意味では「溝が深い=エネルギーの大きい音を刻んでいる」と言える部分もありますが、そのまま「深いほど高音質」とは言い切れません。

溝が深い・太いとどうなる?

  • 大きな音量や強い低音を刻むには、溝をより深く・太く刻む必要があります。
  • 低音は波形が大きくなるため、深さや幅をしっかり確保しないと、針が溝から飛び出したり、トレースしにくくなったりします。
  • その代わり、1周あたりに必要な「スペース」が増えるので、1枚あたりに収録できる時間は短くなります。

逆に、

  • 長時間収録したいときは、溝を浅く・細く刻んで、溝同士をギュッと詰める必要があります。
  • その分、音量を下げたり、低音を控えめにしたりして、無理のない範囲でカッティングされることが多いです。

つまり、「深い溝=音がいい」というよりは、

  • 溝が深い/太い:音量を大きく、低音もたっぷり入れられる。でも、再生時間は短くなりがち。
  • 溝が浅い/細い:長く収録できる。代わりに音量・低音・ダイナミクスが控えめになることが多い。

というトレードオフの中で決まっている、というイメージです。


カッティングエンジニアの「さじ加減」と音の違い

レコードの音は、「カッティングエンジニア」と呼ばれる専門家が、ラッカー盤に溝を刻む段階で大きく決まります。このとき、エンジニアは次のようなことを考えながら作業をしています。

  • 1面あたりの収録時間は何分か
  • 曲の中にどれくらい強い低音(キック、ベースなど)があるか
  • 全体の音量をどこまで上げられるか
  • 最後の曲まで安定してトレースできるか

特に低音と音量は、溝の深さと幅に直結します。

  • 低音が強い → 溝の振幅が大きくなり、深さ・幅ともに余裕が必要
  • 音量が大きい → 溝の揺れ幅が大きくなり、やはりスペースが必要

そのため、エンジニアは、

  • 低音をやや抑える
  • ステレオの広がりを低音域では少し狭くする
  • 全体のレベルを少し下げる

といった調整をしながら、「深さ・幅・間隔」のバランスを取っています。

ELANでの体感的な違いの例

ライブ喫茶ELANのレーザーターンテーブルで、同じアルバムのオリジナル盤と、後年に作られた「ロングプレイ仕様」の再発盤を聴き比べると、次のような違いを感じることがあります。

  • オリジナル盤:音量がやや大きく、ベースが前に出てくる印象。曲数が少なめで、1面あたりの時間に余裕がある。
  • ロングプレイ再発盤:全体の音量が少し控えめで、低音もすっきりまとまっている。曲数が増えていて、1面あたりの時間が長い。

これは、まさに「溝の使い方」の違いから生じる音の差で、深さだけでなく、幅とピッチ(溝同士の間隔)をどう配分するかという設計の違いだと言えます。


溝の深さ・幅・間隔が音に与える具体的な影響

ここからは、もう少し踏み込んで、溝の「深さ・幅・間隔」が音質にどう関わるのか、整理してみます。

1. 溝の深さ:主に音量と低音の余裕

溝が深く刻まれているほど、大きな振幅(音のエネルギー)を物理的に収めやすくなります。特に低音は振幅が大きいため、十分な深さがないと、針が正しく追従できず、歪みや針飛びの原因になります。

その一方で、

  • 物理的に使える深さには限界があるため、「ただ深くすればいい」というわけではありません。
  • 深くしすぎると、隣の溝との距離(間隔)を広げざるを得ず、収録時間が減ってしまいます。

2. 溝の幅:ダイナミクスとノイズとの戦い

溝が太い(幅が広い)ほど、大きな振幅や強い低音を刻みやすく、ダイナミックレンジの広い音を記録しやすくなります。ただし、幅を広げると1周あたりの必要面積が増え、やはり収録時間が減ってしまいます。

また、幅と関係が深いのが「ノイズとの比率」です。

  • 溝が太く、ピッチに余裕があると、音楽信号のレベルを高く保てるため、表面ノイズに埋もれにくくなります。
  • 逆に、細く詰め込んだ溝では、レベルを上げにくく、ザラつきやチリチリ音が相対的に目立ちやすくなります。

3. 溝の間隔(ピッチ):時間と音質のトレードオフ

「このアルバムは1面で何分ぐらいまでが理想か?」という話は、まさに溝の間隔の問題です。

  • 溝の間隔を広く取る:収録時間は短くなる。その代わり、深さ・幅ともに余裕があり、音量や低音も豊かにできる。
  • 溝の間隔を狭くする:長時間収録が可能になる。代わりに音量と低音、ダイナミクスを控えめにする必要が出やすい。

特に、LPの内周(盤の中央付近)は、物理的に溝の「1周あたりの長さ」が短くなるため、針が読み取る情報量も制約を受け、高音がやや落ちるなどの影響が出やすいと言われています。

そのため、カッティングエンジニアは、曲の構成を見ながら「どの曲を内側に持ってくるか」まで考えて作業することもあります。


ビニール盤ならではの「設計思想」を楽しむ

ここまで読むと、「なんだか難しい話だな」と感じられるかもしれません。でも、ライブ喫茶ELANとしてお伝えしたいのは、「ビニール盤の音は、こうした物理的な制約と職人の判断が積み重なって生まれている」ということです。

同じアルバムでも盤によって音が違う理由

たとえば、同じアルバムでも、

  • オリジナルの初回プレス
  • 後年のリマスター盤
  • ベスト盤に再収録された編集盤

を聴き比べると、「同じ曲なのに、低音の出方や音量感が違う」と感じることが少なくありません。これは、マスタリングだけでなく、「どれだけの時間を1面に詰めるか」「どういうターンテーブル環境を想定するか」といった考え方の違いも影響しています。

ELANでも、お客様とこんな会話になることがあります。

お客様「このオリジナル盤、同じ曲なのに、配信で聴くよりベースが太く感じますね」

オーナー「この頃の盤は、1面の収録時間も短めで、溝にも余裕があるので、低音もたっぷり刻めるんですよ」

こうした違いは、まさに「溝の深さ・幅・間隔の設計」の違いが耳に届いている瞬間だと言えます。

レーザーターンテーブルでわかる「溝の情報量」

ELANで導入しているレーザーターンテーブルは、針ではなくレーザー光で溝の動きを読み取るプレーヤーです。針圧がかからないぶん、摩耗の影響を受けにくく、溝に刻まれている情報を非常に細かく拾い上げてくれます。

結果として、

  • カッティング時の「設計の違い」
  • 溝の状態(傷・汚れ・反りなど)
  • 盤ごとの静けさ(ノイズフロア)

がよくわかり、ビニール盤そのものが「ひとつの楽器」のように感じられる瞬間があります。同じタイトルの盤を2枚持ち込まれて、「どっちが好みか」一緒に聴き比べる常連さんもいらっしゃいます。


じゃあ、結局「溝の深さ」で音は変わるのか?

ここまでを踏まえて、あらためて最初の質問に戻ってみます。

Q. ビニール盤の溝の深さで音が変わるって本当?

A. 「溝の深さそのものが”単独で”音を決めているわけではないけれど、深さ・幅・間隔とカッティングレベルの組み合わせとして、確かに音質に影響している」というのが答えになります。

もう少し噛み砕くと、

  • 溝を深く・太く刻めば:大きな音量・豊かな低音・広いダイナミクスを刻みやすい。ただし、収録時間は短くなり、曲数にも制約が出る。
  • 溝を浅く・細くすれば:長時間収録できるが、音量や低音の量に制約が出やすい。

という関係性の中で、エンジニアが「どういう聴かれ方をしてほしいか」を考えながら決めている、というイメージです。


おすすめの楽しみ方

ライブ喫茶ELANとしては、お客様には次のような楽しみ方をおすすめしています。

レコードを選ぶとき:

  • 1面の収録時間や、当時の制作背景にも目を向けてみる
  • オリジナル盤/再発盤で、音のキャラクターの違いを味わってみる

お店で聴くとき:

  • 「この盤は、どんなふうにカッティングされているんだろう?」と想像しながら耳を傾けてみる
  • 気になったら、ぜひカウンターでオーナーに話しかけてみる

「深い溝=単純に高音質」ではありませんが、溝の深さを含む「物理的な設計」が、ビニール盤ならではの奥深い音の世界を支えていることは間違いありません。

 

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