NEWS

2025年08月20日

レコードの溝はなぜ左右に揺れているのか?ステレオ録音の仕組みや、レコード針が音を拾う原理をやさしく解説

音楽とコーヒーを楽しむ隠れ家、ライブ喫茶ELAN

広く落ち着いた雰囲気の店内に、往年の名曲を収めたレコードが所狭しと並ぶ。ライブ喫茶ELANは、音楽とコーヒーを楽しめる喫茶店です。音楽を楽しみながら、ゆったりとしたくつろぎの時間をお過ごしください。

今日は、当店でもお客様からよく質問をいただく「レコードの仕組み」について、詳しく解説させていただきます。レコード針がくるくると回る盤面を辿りながら、なぜあの小さな針だけで豊かな音楽が再生されるのか、その神秘的なメカニズムを紐解いてみましょう。

レコードの基本構造と歴史

レコードの歴史は19世紀後半のトーマス・エジソンの蓄音機に始まります。当時は円盤ではなく円筒形のシリンダーに音を記録していましたが、やがてエミール・ベルリナーによって現在のような円盤レコードが発明されました。

現代の長時間再生レコード(LP:Long Playing record)は、1948年にコロンビア・レコードによって開発され、33回転3分の1回転(33 1/3 rpm)で回転し、片面約30分の録音が可能になりました。これは革命的な発明で、それまでのSPレコード(78回転)では1曲につき1枚が必要だったのに対し、LPレコードでは一枚のレコードにアルバム全体を収録できるようになったのです。

当店ELANでも、このLPレコードを中心に、1950年代から1980年代にかけての名盤を数多く揃えております。ジャズ、クラシック、ロック、ポップスと幅広いジャンルのレコードが、お客様をお迎えしています。

レコードの溝に刻まれた音の正体

レコードの表面を虫眼鏡で詳しく観察すると、非常に細かい螺旋状の溝が刻まれているのがわかります。この溝こそが音楽情報の宝庫なのです。溝の幅は通常約0.1ミリメートル程度で、溝と溝の間隔(ピッチ)は1ミリメートルあたり約4本から8本程度です。

音の情報は、この溝の形状の変化として記録されています。具体的には、溝の左右への振動(横振動)と上下への振動(縦振動)によって音の波形が物理的に刻み込まれているのです。

録音時には、マイクロフォンで捉えた音の電気信号をカッティング・スタイラスという特殊な針に伝え、この針がレコードの原盤となるラッカー盤に溝を刻んでいきます。大きな音は溝の振動も大きくなり、小さな音は振動も小さくなります。高い音は細かく振動し、低い音はゆったりと振動します。

モノラル録音の仕組み

最初にモノラル録音の仕組みを理解しましょう。モノラルとは「単一の音源」という意味で、すべての音が一つの信号として記録される方式です。

モノラルレコードでは、音の情報は溝の左右への振動(横振動)のみで記録されます。音が大きいときは溝が左右に大きく揺れ、音が小さいときは揺れも小さくなります。また、高音域では細かく振動し、低音域ではゆったりと振動します。

再生時には、レコード針(スタイラス)が溝の形状変化を追従し、その振動をカートリッジ内の発電機構によって電気信号に変換します。この電気信号をアンプで増幅し、スピーカーから音として出力するのです。

1950年代以前の多くのレコードはこのモノラル方式で録音されており、当店でも往年のジャズやクラシックの名盤をモノラル録音で楽しんでいただくことができます。モノラル録音には独特の音場感があり、現代のステレオ録音とは異なる魅力があります。

ステレオ録音の革命的な発明

1958年、レコード業界に革命が起こりました。ステレオ録音の実用化です。ステレオとは「立体音響」を意味するステレオフォニック(Stereophonic)の略で、左右二つのチャンネルで音を記録・再生する方式です。

ステレオ録音の最大の特徴は、音に奥行きと広がりを持たせることができる点です。楽器の配置を左右に振り分けることで、まるでその場にいるかのような臨場感のある音楽体験が可能になったのです。

当店ELANでは、高品質なステレオシステムを導入しており、ステレオ録音の魅力を十分にお楽しみいただけます。特に、1960年代以降のロックやジャズのアルバムでは、ステレオ録音の効果が顕著に現れており、楽器の定位や音場の広がりを存分に味わっていただけます。

ステレオレコードの溝の秘密

ステレオレコードの溝が左右に揺れている理由、それこそがステレオ録音の核心部分です。ステレオレコードでは、一本の溝に左右二つのチャンネルの情報を同時に記録する画期的な方法が採用されています。

この方式は「45度・45度方式」と呼ばれ、アメリカのワイス・ラボラトリーズによって開発されました。具体的には次のような仕組みになっています:

左チャンネルの音は、溝の左壁面の角度変化として記録されます。右チャンネルの音は、溝の右壁面の角度変化として記録されます。両方の壁面が45度の角度で切り立っており、それぞれ独立して音の情報を保持しています。

溝の横振動は左右の音の和(L+R)を表し、縦振動は左右の音の差(L-R)を表します。この巧妙な方式により、一本の溝に二つの独立したチャンネルの情報を記録することが可能になったのです。

レコード針が音を拾う原理

レコード針(スタイラス)がどのように溝から音を読み取るのか、その精密なメカニズムを詳しく見てみましょう。

現代のレコードプレーヤーで使用されるスタイラスは、通常ダイヤモンド製です。ダイヤモンドは非常に硬い物質であり、レコードとの摩擦による摩耗が少ないため、長期間にわたって正確な音の再生が可能です。

スタイラスの先端は球形ではなく、楕円形に研磨されています。これにより溝の壁面により密着し、細かい音の情報まで正確に読み取ることができます。針圧(スタイラス・フォース)は通常1グラムから3グラム程度に調整されており、この絶妙なバランスが高品質な音の再生を実現しています。

カートリッジの種類と発電原理

スタイラスは単独では機能せず、カートリッジと呼ばれる装置に取り付けられています。カートリッジは溝の振動を電気信号に変換する重要な役割を担っており、主に二つの種類があります。

ムービング・マグネット(MM)カートリッジ

MM型カートリッジでは、スタイラスの動きに連動して小さな磁石が振動し、周囲に配置されたコイルに電気を発生させます。比較的出力が高く、アンプへの接続が簡単な特徴があります。多くの家庭用レコードプレーヤーでMM型カートリッジが採用されています。

ムービング・コイル(MC)カートリッジ

MC型カートリッジでは、固定された磁石の間でコイルが振動し、より精密な電気信号を生成します。出力は低めですが、音質面で優れた特性を持っており、高級オーディオシステムで好まれます。当店ELANでも、MC型カートリッジを採用したシステムで、より高品質な音楽再生を実現しています。

ステレオ再生のメカニズム

ステレオカートリッジには、左右のチャンネルを個別に検出するための巧妙な仕組みが組み込まれています。

カートリッジ内部には、溝の横振動を検出する機構と縦振動を検出する機構があります。横振動(L+R信号)と縦振動(L-R信号)を電気的に処理することで、元の左チャンネル(L)と右チャンネル(R)の信号を復元します。

具体的には、以下の計算が行われます:

  • 左チャンネル = (L+R) + (L-R) = 2L
  • 右チャンネル = (L+R) – (L-R) = 2R

この数学的な処理により、一本の溝から左右独立した音声信号を取り出すことができるのです。

レコードの音質に影響する要因

レコードの音質は多くの要因によって左右されます。まず、レコード自体の品質が重要です。初回プレス盤と後期プレス盤では、原盤の摩耗によって音質に差が生じることがあります。また、レコードの保存状態も音質に大きく影響します。

当店ELANでは、レコードの保管に細心の注意を払っております。直射日光を避け、適切な温度と湿度を保った環境でコレクションを管理しています。また、再生前にはレコードクリーナーを使用し、溝に蓄積した埃や汚れを除去してから再生しています。

レコードプレーヤーのセッティングも音質に大きく影響します。ターンテーブルの水平調整、針圧の調整、アンチスケート機構の調整など、多くのパラメータを正確に設定する必要があります。当店では、定期的に機器のメンテナンスを行い、常に最適な状態で音楽をお楽しみいただけるよう努めています。

デジタル時代におけるアナログレコードの魅力

CD、ストリーミング配信といったデジタル音源が主流となった現代においても、アナログレコードの人気は衰えることがありません。その理由は、アナログレコード特有の音質的特徴にあります。

アナログ録音では、音の波形が物理的な溝の形状として直接記録されるため、理論上は無限の解像度を持っています。一方、デジタル録音では音をサンプリングして数値化するため、どうしても階段状の近似値となってしまいます。

また、アナログレコードには「暖かい音」と表現される独特の音色があります。これは、レコーディング、カッティング、再生の各段階で生じる微細な非線形歪みや、針とレコードの物理的な接触によって生まれる自然な音色変化によるものです。

レコード再生における技術的な課題と解決法

レコード再生には多くの技術的な課題があります。その一つが、レコードの内周と外周で線速度が異なることです。外周では線速度が速く、内周では遅くなるため、同じ時間の音楽でも溝の密度が変化します。これにより、内周に近づくほど高音域の再生が困難になる傾向があります。

この問題を解決するため、レコードのカッティング時には周波数特性を調整するイコライザーカーブが適用されます。一般的にはRIAAイコライザーカーブが使用され、低音域をカット、高音域をブーストして記録し、再生時に逆の処理を行うことで平坦な周波数特性を実現しています。

トラッキング・エラーとその対策

レコード針が溝を正確に追従することをトラッキングと呼びますが、実際には様々な要因でトラッキング・エラーが発生します。その主な要因と対策について説明します。

タンジェンシャル・エラー

レコードの溝は螺旋状に刻まれているため、直線状のアームを使用する一般的なレコードプレーヤーでは、針が常に溝に対して接線方向を向いているわけではありません。これがタンジェンシャル・エラーです。

このエラーを最小化するため、トーンアームの長さや取り付け角度を調整するオフセット角やオーバーハング量の設定が重要になります。当店のシステムでも、これらのパラメータを精密に調整しています。

スケーティング・フォース

レコード針が溝を辿る際、遠心力によって針が内側に引っ張られる現象をスケーティング・フォースと呼びます。これを補正するのがアンチスケート機構で、適切に調整することで左右のチャンネルバランスを保つことができます。

レコードのメンテナンスと保管方法

レコードを良好な状態で保つためのメンテナンス方法について、当店での実践例をご紹介します。

清掃方法

レコードの清掃は音質維持の基本です。カーボンファイバー製のブラシを使用し、溝の方向に沿って軽く払うように清拭します。頑固な汚れには、専用のレコードクリーナー液を使用し、マイクロファイバークロスで丁寧に清拭します。

保管環境

レコードは縦置きで保管し、重ねて保管することは避けます。直射日光、高温多湿を避け、理想的には温度20℃前後、湿度50-60%の環境で保管します。また、帯電防止のため、定期的に除電ブラシを使用することも効果的です。

名盤とその録音技術

当店ELANのコレクションから、録音技術的に優れた名盤をいくつかご紹介しましょう。

ジャズ界の名盤

マイルス・デイヴィスの「Kind of Blue」(1959年)は、モノラル録音時代の最高傑作の一つです。コロンビア・レコードの優秀な録音技術により、各楽器の音色と空間的な広がりが見事に捉えられています。

ステレオ録音では、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの「Moanin’」(1958年)が素晴らしい音質で知られています。ブルーノート・レコードの録音技術により、ドラムスの迫力とホーン・セクションの定位が鮮明に再現されています。

ロック・ポップスの名盤

ビートルズの「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」(1967年)は、ステレオ録音技術の可能性を押し広げた記念すべき作品です。ジョージ・マーティンのプロデュースにより、革新的な録音手法とステレオ効果が駆使されています。

ピンク・フロイドの「The Dark Side of the Moon」(1973年)は、アナログ録音技術の頂点を示す作品の一つです。アビイ・ロード・スタジオの最新技術と、アラン・パーソンズの卓越したエンジニアリングにより、圧倒的な音場感を実現しています。

真空管アンプとの相性

アナログレコードの魅力を最大限に引き出すため、当店ELANでは真空管アンプを使用しています。真空管アンプは、トランジスタアンプとは異なる音色特性を持ち、アナログレコードとの相性が抜群です。

真空管アンプの特徴は、偶数次高調波を豊富に含んだ暖かい音色です。これがアナログレコードの持つ自然な質感と相まって、デジタル機器では得られない音楽的な魅力を生み出します。また、真空管の微妙な非線形特性が、音楽に生命感と立体感を与えています。

スピーカーシステムと音場再現

ステレオ録音の醍醐味である音場再現には、適切なスピーカーシステムの選択と配置が不可欠です。当店では、音楽ジャンルに応じて最適化されたスピーカーシステムを使用しています。

ジャズやクラシック音楽では、楽器の自然な音色再現を重視したモニタースピーカーを使用し、ロックやポップスでは、より迫力のある音響効果を得られるスピーカーシステムを選択しています。

また、スピーカーの配置は音場再現に決定的な影響を与えます。正三角形の頂点に位置するリスニングポジションから、左右のスピーカーまでの距離と角度を精密に調整し、理想的なステレオイメージを構築しています。

レコード文化の未来

デジタル時代においても、アナログレコードは単なる懐古趣味を超えた存在として注目されています。近年では、新進気鋭のアーティストたちも積極的にアナログレコードをリリースし、若い世代にもレコードファンが増加しています。

この現象の背景には、音楽との物理的な関わりを求める心理があります。レコードジャケットを手に取り、ターンテーブルに置き、針を下ろす一連の動作は、音楽との深いつながりを生み出します。デジタル配信では得られない、音楽との能動的な関係性がアナログレコードの大きな魅力です。

当店ELANでのレコード体験

名古屋の隠れ家的な存在である当店ELANでは、厳選されたレコードコレクションと最高品質の再生システムで、本格的なアナログサウンドをお楽しみいただけます。静かで落ち着いた環境の中で、レコードならではの豊かな音楽体験をお提供しています。

お客様には、リクエストに応じて様々なジャンルのレコードをお聞かせすることができます。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、それぞれの魅力をアナログレコードならではの音質でお楽しみください。

また、レコードや音響機器に関するご質問にもお答えしています。音楽愛好家の皆様との知識や経験の共有も、当店の大切な役割の一つと考えております。

おわりに

レコードの溝に刻まれた音の情報を、物理的な針で読み取るという古典的な再生方式は、一見すると時代遅れに思えるかもしれません。しかし、その背後には精巧な物理学と工学技術が結集されており、現代のデジタル技術とはまた異なる魅力と可能性を秘めています。

ステレオレコードの左右に揺れる溝は、音楽を立体的に再現するための ingenious な発明であり、50年以上経った今でもその基本原理は変わっていません。この技術的な完成度の高さこそが、アナログレコードが長きにわたって愛され続けている理由の一つでもあります。

当店ELANでは、このようなアナログレコードの奥深い世界を、美味しいコーヒーと共にごゆっくりとお楽しみいただけます。レコードの針が溝を辿る小さな音、ターンテーブルの回転音、そして何よりも豊かで温かみのある音楽が、皆様の心に特別な時間を刻むことでしょう。

音楽愛好家の皆様のご来店を、スタッフ一同心よりお待ちしております。レコードに関する疑問や、お聞きになりたい楽曲がございましたら、お気軽にお声かけください。アナログレコードの魅力を存分にお楽しみいただける、特別な音楽体験をご提供いたします。

====================


Cafe & Music ELAN 

やわらかな音と、香り高い一杯を。

名古屋市熱田区外土居町9-37
光大井ハイツ1F 高蔵西館102
052-684-1711
 営業時間|10:00〜23:00
定休日|月曜・第1&第3火曜日
アクセス|金山総合駅より大津通り南へ徒歩15分
市営バス(栄21)泉楽通四丁目行き「高蔵」下車すぐ
地下鉄名城線「西高蔵」駅より東へ徒歩7分
JR熱田駅より北へ徒歩9分

ゆったりと流れる時間のなかで、
ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います

あなたの今日が、少しやさしくなるように。
Live Café ELAN でお待ちしております