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2025年09月16日

ピアノの弦はなぜ横ではなく縦に張られている?

こんにちは、名古屋のライブ喫茶ELANです。当店には美しいグランドピアノが置かれており、時折お客様から「なぜピアノの弦は縦に張られているのですか?」というご質問をいただきます。

確かに、ギターやバイオリンなどの弦楽器は弦が横に張られているのに対し、ピアノだけは縦に張られています。この素朴な疑問について、今日は音楽を愛する皆様にわかりやすくお話しさせていただきたいと思います。

ピアノの構造の基本を知ろう

まず、ピアノがどのような構造になっているかを理解することが大切です。当店のピアノを例にとってお話しします。

ピアノには大きく分けて「アップライトピアノ」と「グランドピアノ」の2種類があります。当店にあるのはグランドピアノですが、どちらも弦が縦方向に張られているという基本的な構造は同じです。

ピアノの内部を覗いてみると、低音域から高音域まで、実に220本以上もの弦が美しく並んでいます。低音部では1つの音に対して1本の太い弦が、中音部では2本、高音部では3本の細い弦が使われています。これらすべてが縦方向、つまり上下に張られているのです。

先日、当店にピアノの調律師さんが来られた際に、お客様がこの質問をされました。調律師さんは「実はこれには深い理由があるんですよ」と微笑みながら説明してくださいました。その時の会話をもとに、詳しくご説明していきましょう。

音響学的な理由:音の響きを最大化するため

ピアノの弦が縦に張られている最も重要な理由は、音響学的な効果にあります。

弦が縦に張られることで、弦の振動が効率よく響板(きょうばん)と呼ばれる木製の板に伝わります。響板は楽器の「スピーカー」のような役割を果たしており、弦だけでは小さな音しか出ませんが、この響板があることで豊かで大きな音量を生み出すことができるのです。

当店でライブを行う際、ピアニストの方がよく「このピアノは本当に響きが良いですね」とおっしゃいます。これは弦が縦に張られていることで、響板全体が効率的に振動し、美しい音色を生み出しているからなのです。

もし弦が横に張られていたらどうなるでしょうか。弦の振動が響板に対して平行になってしまい、振動エネルギーが十分に伝わりません。まるで、太鼓の皮を横から叩くようなもので、十分な音量や豊かな音色を得ることができないのです。

物理学的な理由:重力との関係

ピアノの弦配置には、物理学的な理由も深く関わっています。

弦が縦に張られることで、重力が弦に対して均等に作用します。これにより、弦の張力(弦にかかる力)が安定し、音程が狂いにくくなるのです。当店のピアノも定期的に調律が必要ですが、もし弦が横に張られていたら、もっと頻繁な調律が必要になることでしょう。

また、縦張りにすることで、弦全体に均等な圧力がかかります。これは楽器の構造的な安定性にも寄与しています。ピアノの弦にかかる総張力は約20トンにも達するといわれていますが、この巨大な力を楽器全体で均等に支えることができるのも、縦張り構造のおかげなのです。

実際に、19世紀に開発された初期のピアノでは、この張力の問題が大きな課題でした。当時の技術では木製のフレームだけでは強度が不足し、しばしば楽器が破損することがありました。現在のように鉄製のフレームを使用し、縦張り構造を採用することで、この問題が解決されたのです。

歴史的な発展:ピアノの進化とともに

ピアノの弦配置の歴史を振り返ると、現在の縦張り構造に至るまでには長い発展の過程がありました。

ピアノの前身である「クラヴィコード」や「ハープシコード」では、弦は横に張られていました。しかし、これらの楽器は音量が小さく、大きなホールでの演奏には向いていませんでした。18世紀初頭にバルトロメオ・クリストフォリが現在のピアノの原型を発明した際、より大きな音量と表現力を求めて、弦の配置を縦に変更したのです。

当店にいらっしゃるクラシック音楽愛好家の方から、「モーツァルトの時代のピアノと現在のピアノでは、音色がずいぶん違いますね」というお話を聞くことがあります。確かに、時代とともにピアノの構造は大きく変化し、特に19世紀に入ってからの改良は目覚ましいものがありました。

19世紀中期には、産業革命の恩恵を受けて鉄製フレームの技術が発達しました。これにより、より強い張力で弦を張ることができるようになり、縦張り構造の利点をさらに活かすことができるようになったのです。

設計上の利点:スペース効率と演奏性

ピアノの縦張り構造は、楽器の設計面でも多くの利点をもたらしています。

まず、スペース効率の観点から見てみましょう。当店のような限られた空間では、楽器のサイズは重要な要素です。弦を縦に配置することで、ピアノ全体をコンパクトに設計することができます。特にアップライトピアノでは、この効果は顕著に現れており、家庭や店舗でも設置しやすい大きさを実現しています。

演奏性の面でも、縦張り構造は大きな利点があります。ピアニストが鍵盤を押すと、ハンマーが弦を叩きますが、このハンマーの動きが縦張り構造によって最適化されています。重力を利用してハンマーが自然に落下するため、演奏者はより繊細なタッチコントロールが可能になるのです。

先月、当店でジャズピアニストの方がライブを行った際、「このピアノは本当に表現しやすいですね。強弱の付け方が思い通りにできます」とおっしゃっていました。これも、縦張り構造がもたらす演奏性の向上の証左といえるでしょう。

音色への影響:豊かな表現を生み出すメカニズム

ピアノの縦張り構造は、音色にも深い影響を与えています。

弦が縦に張られることで、弦の振動パターンが複雑になります。これにより、基音だけでなく多くの倍音が生成され、ピアノ特有の豊かな音色が生まれるのです。当店でクラシックからジャズまで様々なジャンルの演奏を聴いていると、ピアノがいかに表現力豊かな楽器であるかを実感します。

また、縦張り構造により、異なる音域の弦同士が相互に共鳴し合います。これを「共鳴現象」といいますが、ピアノの音に深みと広がりを与える重要な要素です。例えば、低音域の音を弾いたとき、その音に関連する高音域の弦も微妙に振動し、音全体に厚みを与えるのです。

お客様から「ピアノの音って、なんだか温かみがありますね」というお言葉をいただくことがありますが、これも縦張り構造がもたらす音響効果の賜物なのです。

他の楽器との比較:なぜピアノだけが特別なのか

ピアノと他の弦楽器を比較すると、弦の張り方の違いがより明確になります。

ギターやバイオリンなどの弦楽器では、弦は楽器の表面に平行に、つまり横に張られています。これらの楽器では、演奏者が直接弦を弾いたり弓で擦ったりして音を出すため、弦へのアクセスが重要です。また、これらの楽器は楽器全体が共鳴箱として機能するため、弦の張り方も異なる原理で設計されています。

一方、ピアノは鍵盤楽器であり、演奏者は直接弦に触れることはありません。代わりに、鍵盤を通じてハンマーを動かし、そのハンマーが弦を叩いて音を出します。このメカニズムの違いが、弦の配置方法にも影響を与えているのです。

当店には時々、ギタリストの方もいらっしゃいますが、ピアノとギターの構造の違いについて興味深い質問をされることがあります。「同じ弦楽器なのに、なぜこんなに違うのでしょうか」という疑問に対し、それぞれの楽器が持つ役割と音響的特性の違いをご説明すると、皆さん納得されます。

現代への影響:電子ピアノとの比較

現代では、電子ピアノやデジタルピアノも普及していますが、アコースティックピアノの縦張り構造の重要性は変わっていません。

電子ピアノは、アコースティックピアノの音をサンプリング(録音)して再現していますが、その元となる音色は、縦張り構造のアコースティックピアノから生まれたものです。つまり、私たちが電子ピアノで聞いている美しい音色も、実は縦張り構造の恩恵を受けているといえるのです。

また、最新の電子ピアノでは、アコースティックピアノの鍵盤タッチを再現するために、ハンマーアクションを模倣した機構を採用しています。これも、縦張り構造のアコースティックピアノの演奏感を基準として開発されているのです。

当店では、あえてアコースティックピアノにこだわっています。お客様からは「やはり本物のピアノの音は違いますね」という感想をいただくことが多く、縦張り構造が生み出す自然な音響の魅力を改めて感じています。

まとめ:ピアノ文化を支える技術的基盤

ピアノの弦が縦に張られている理由について、様々な角度からお話しさせていただきました。音響学的効果、物理学的安定性、歴史的発展、設計上の利点、音色への影響など、多くの要因が複合的に作用して、現在の縦張り構造が生まれたのです。

当店ライブ喫茶ELANでは、この美しい楽器の魅力を皆様にお伝えしたいという思いから、定期的にピアノライブを開催しています。アーティストの方々が奏でる音色を聞きながら、今日お話しした縦張り構造の技術的背景を思い浮かべていただければ、より深くピアノの音楽を楽しんでいただけることでしょう。

次回ご来店の際は、ぜひ当店のピアノを間近でご覧ください。縦に美しく張られた弦の様子を見ながら、コーヒーの香りとともに音楽の奥深い世界に思いを馳せていただけたら幸いです。

音楽とコーヒーを楽しむ隠れ家として、これからも皆様に愛され続けるライブ喫茶ELANでありたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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Cafe & Music ELAN 

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ハンドドリップのコーヒーとグランドピアノの音色がそっと寄り添います

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