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2025年10月19日

レコードを長持ちさせるための取り扱い豆知識

名古屋の音楽愛好家の皆様、こんにちは。ライブ喫茶ELANです。

当店では、往年の名曲から最新のリリースまで、幅広いジャンルのレコードを所狭しと並べており、こだわりの音響設備でお客様に最高の音楽体験をお届けしています。広く落ち着いた雰囲気の店内で、音楽とコーヒーを楽しみながら、ゆったりとしたくつろぎの時間をお過ごしいただけるよう、日々努力しております。

開店から15年、数千枚のレコードと向き合ってきた経験の中で、多くのお客様から「家でもレコードを楽しみたいけれど、どうやって管理すればいいの?」というご質問をいただきます。レコードは適切な取り扱いをすれば、何十年も美しい音を奏でてくれる素晴らしい音楽メディアです。

今回は、当店での実践を基に、レコードを長持ちさせるための具体的な取り扱い方法をご紹介します。これからレコード収集を始めようとお考えの方から、既にコレクションをお持ちの方まで、きっと役立つ情報をお届けできると思います。

レコードの基本構造と劣化の原因を理解しよう

レコードを大切に扱うためには、まずその構造を理解することが重要です。

レコード盤は、主にポリ塩化ビニール(PVC)という樹脂材料で作られています。この材料に音楽の情報が物理的な溝として刻まれており、レコード針(スタイラス)がその溝をなぞることで音が再生される仕組みです。

当店でよく見かける劣化の原因は、主に以下の4つです:

物理的損傷 指紋や汚れ、傷が最も多い劣化要因です。先日も、お客様が持参されたビートルズの貴重な初回プレス盤に、取り扱いミスによる深い傷が入ってしまったケースがありました。一度ついた傷は完全には修復できないため、予防が何より大切です。

化学的劣化 PVC素材は時間とともに可塑剤(素材を柔らかくする添加物)が揮発し、硬化や脆化が進みます。これにより音質が変化したり、最悪の場合は盤面にひび割れが生じることもあります。

環境要因 温度や湿度の変化、紫外線、埃なども大きな影響を与えます。当店では、レコード保管庫の温湿度を常時監視し、最適な環境を維持しています。

機械的摩耗 針圧が適切でない場合や、針が摩耗した状態での再生は、溝を削ってしまい不可逆的な損傷を与えます。

これらの劣化要因を理解することで、適切な予防策を講じることができます。次の章では、具体的な保管方法について詳しく説明していきます。

正しい保管方法:温度・湿度・光の管理

レコードの寿命を大きく左右するのが保管環境です。当店での15年間の経験から、最適な保管条件をお伝えします。

温度管理の重要性 理想的な保管温度は18~22度です。高温になるとレコード盤が反ったり、音質が劣化する原因となります。

実際に当店で経験した話ですが、夏場にエアコンが故障した際、一晩で数枚のレコードが反ってしまったことがありました。特に薄手のレコードや古いプレス盤は温度変化に敏感で、30度を超える環境では短時間でも変形のリスクが高まります。

逆に低温すぎる環境も問題です。冬場に暖房のない倉庫に保管していたレコードが脆くなり、取り扱い時にひび割れを起こした事例もあります。

湿度コントロールのポイント 湿度は45~55%を目標にしましょう。湿度が高すぎると、レコードジャケットにカビが発生したり、静電気が起きにくくなる代わりに盤面に水分が付着しやすくなります。

一方、湿度が低すぎると静電気が発生しやすくなり、埃を引き寄せる原因となります。当店では除湿器と加湿器を使い分け、季節に応じて湿度を調整しています。

光による劣化の防止 直射日光や強い照明は避けるべきです。紫外線はレコードジャケットの色褪せだけでなく、盤面の劣化も促進します。

当店のレコード展示コーナーでは、UV カットフィルムを貼った照明を使用し、レコードへの紫外線照射を最小限に抑えています。また、窓際での保管は絶対に避け、間接照明での展示を心がけています。

空気の循環 密閉された空間での長期保管は、化学的劣化を促進する場合があります。適度な空気の循環を確保することで、揮発性物質の蓄積を防げます。

ただし、直接風が当たる場所は埃の原因となるため、間接的な換気を心がけることが大切です。当店では、レコード保管エリアに小型のサーキュレーターを設置し、穏やかな空気の流れを作っています。

取り扱い時の注意点:持ち方と置き方

レコードの物理的な損傷を防ぐには、正しい取り扱い方法を身につけることが不可欠です。

正しい持ち方 レコードは必ず外周(エッジ)とレーベル部分を持ちましょう。音楽が刻まれた溝の部分(盤面)に指を触れることは絶対に避けてください。

当店スタッフの研修では、「レコードは熱いフライパンを持つように」と教えています。盤面に触れると火傷するかのような意識を持つことで、自然と正しい持ち方が身につきます。

実際に、慣れないお客様がレコードを手に取る際、ついつい盤面を触ってしまうことがよくあります。指紋がついた部分は音飛びやノイズの原因となるため、その都度丁寧にクリーニングを行っています。

取り出し方のコツ レコードジャケットからの取り出しは、ジャケットを軽く開いて、レコードの重みを利用して滑り出すように取り出します。無理に引っ張ったり、ジャケットを逆さにして落とすような取り出し方は厳禁です。

特に古いジャケットは紙が劣化している場合があり、強い力を加えると破れてしまいます。当店では、貴重盤には内袋とジャケットの間にクリアファイルを挟むことで、取り出し時の摩擦を軽減しています。

置き方の基本 レコードを一時的に置く際は、必ず垂直に立てかけるか、専用のレコードスタンドを使用してください。平置きは上下のレコードの重みで反りの原因となります。

当店の試聴コーナーでは、お客様用のレコードスタンドを複数設置し、安全にレコードを置けるスペースを確保しています。また、スタンドの材質も重要で、柔らかすぎる材質だとレコードが倒れやすく、硬すぎる材質だとレコードに傷をつける可能性があります。

運搬時の注意 複数枚のレコードを運ぶ際は、専用のレコードケースやクレートを使用しましょう。重ね過ぎは禁物で、10~15枚程度が適切な枚数です。

当店でレコードを移動する際は、必ず両手で支え、急激な動きは避けるようにしています。特に階段での移動時は、転倒防止のため一度に運ぶ枚数を制限しています。

クリーニングの正しい方法とタイミング

レコードの音質を保つには、定期的なクリーニングが欠かせません。しかし、間違った方法でのクリーニングは逆効果になることもあります。

クリーニングの頻度 基本的には使用前後にブラッシングを行い、月に一度程度の湿式クリーニングを推奨します。ただし、使用頻度や保管環境によって調整が必要です。

当店では、毎日営業終了後にその日使用したレコード全てをドライブラッシングし、週末に湿式クリーニングを実施しています。この習慣により、15年間で一度も音質の大幅な劣化を経験していません。

ドライクリーニング(ブラッシング) レコード専用のアンチスタティックブラシを使用し、溝の方向(中心から外周へ)に向かって軽くブラッシングします。円を描くような動きは絶対に避けてください。

ブラシの毛質も重要で、天然毛(山羊毛など)や導電性のあるカーボン繊維がおすすめです。当店では、オーディオテクニカ製とナガオカ製のブラシを使い分けており、レコードの状態に応じて選択しています。

湿式クリーニングの手順

  1. レコード専用のクリーニング液を溝に沿って少量垂らします
  2. 専用のクリーニングブラシで中心から外周に向かって軽くブラッシング
  3. 清潔なマイクロファイバークロスで水分を拭き取り
  4. 完全に乾燥させてから保管

クリーニング液は、レコード専用の製品を使用することが重要です。中性洗剤を薄めたものなどは、レコードの材質にダメージを与える可能性があります。

避けるべきクリーニング方法 ・アルコール系溶剤の使用 ・粘着テープでの埃取り ・ティッシュペーパーでの乾拭き ・水道水での水洗い

実際に、お客様が持参されたレコードで、不適切なクリーニングにより盤面が曇ったり、静電気が帯電しやすくなったりしているものを数多く見てきました。

プロ仕様のクリーニング 当店では、月に一度、超音波レコードクリーナーを使用した徹底的なクリーニングを行っています。この方法により、通常のクリーニングでは除去できない細かい汚れまで取り除くことができます。

お客様の中にも、年に数回はプロのクリーニングサービスを利用される方がいらっしゃいます。特に貴重盤や思い出深いレコードについては、専門業者でのメンテナンスを推奨しています。

レコード針の交換とメンテナンス

レコードの寿命を左右する重要な要素の一つが、レコード針(スタイラス)の状態です。適切な針のメンテナンスは、レコードだけでなく再生音質の向上にも直結します。

針の寿命と交換タイミング 一般的にダイヤモンド針の寿命は500~1000時間程度です。ただし、使用するレコードの状態や針圧の設定により大きく変わります。

当店では、営業時間を考慮して3か月に一度の針交換を行っています。開店当初、針の交換を怠っていた時期があり、お気に入りのジャズレコードに取り返しのつかない傷をつけてしまった苦い経験があります。それ以来、針の管理には特に注意を払っています。

針圧の適正化 針圧が重すぎると溝を削ってしまい、軽すぎると音飛びや歪みの原因となります。カートリッジメーカーが推奨する針圧の中央値に設定することが基本です。

例えば、推奨針圧が1.8~2.2gの場合、2.0g前後に設定します。当店では、デジタル針圧計を使用して0.1g単位での微調整を行っており、これによりレコードへの負担を最小限に抑えています。

針のクリーニング 使用後は必ず針先のクリーニングを行います。専用のクリーニングブラシを針の後ろから前へ向かって軽く動かし、針先に付着した汚れを除去します。

ここで重要なのは、決して左右に動かさないことです。針先は非常に繊細で、横方向の力に弱いため、破損の原因となります。当店スタッフには、「針は前後の一方向のみ」と徹底指導しています。

アンチスケートの調整 レコードの内周に向かう力(スケーティングフォース)を相殺するアンチスケート機能の適切な設定も重要です。一般的には針圧と同じ値に設定しますが、カートリッジの特性により微調整が必要な場合があります。

カートリッジの選択 MM型(Moving Magnet)とMC型(Moving Coil)それぞれに特徴があります。MM型は交換が容易で維持費が安く、MC型は音質面で優位性があります。

当店のメインシステムではMC型を使用していますが、お客様の使用状況を考慮すると、家庭用にはMM型をおすすめすることが多いです。特に初心者の方には、セッティングの容易さと経済性の面でMM型が適しています。

トラッキングエラーの確認 針がレコードの溝を正確にトレースしているかの確認も重要です。トーンアームの水平調整や針圧の設定が適切でない場合、片側の溝壁にのみ接触し、音質劣化やレコードの片減りを引き起こします。

定期的にテスト用レコードを使用し、左右チャンネルの音質バランスを確認することで、トラッキング状態を把握できます。

ジャケットとライナーノーツの保護

レコードの価値は音源だけでなく、ジャケットやライナーノーツなどの付属物にもあります。これらの適切な保護方法をご紹介します。

ジャケットの劣化要因 紙製のレコードジャケットは湿気、日光、物理的摩擦により劣化します。特に初回プレス盤や限定盤のジャケットは、コレクション価値の大部分を占めることもあります。

当店で扱っているビンテージジャズレコードの中には、音源よりもジャケットアートの方が価値の高いものもあります。例えば、ブルーノート・レーベルの1950年代のオリジナル盤では、ジャケットの状態が買取価格に大きく影響します。

外袋による保護 すべてのレコードには透明な外袋(アウタースリーブ)を装着することを強く推奨します。厚手のポリプロピレン製のものが最適で、ジャケットの角の摩耗を防げます。

当店では、新入荷のレコードには必ず外袋を装着してから棚に並べています。年間数千枚を扱う中で、外袋の有無による劣化の差は歴然としています。

内袋の重要性 元の紙製内袋は、表面が粗くレコードに傷をつける可能性があります。帯電防止処理が施された不織布製やポリエチレン製の内袋への交換をおすすめします。

ただし、オリジナルの内袋も重要な付属品です。当店では、オリジナル内袋は別途保存し、レコード本体には新しい内袋を使用するという方法を採用しています。

ライナーノーツの管理 ライナーノーツやブックレットは、ジャケットから分離して保管することで、折れや汚れを防げます。透明なクリアファイルに入れて、レコードと一緒に保管すると良いでしょう。

ジャケットの補修 小さな破れや角の摩耗は、専用のテープで補修可能です。ただし、貴重盤の場合は専門業者に相談することをおすすめします。

当店でも、お客様から依頼されてジャケットの軽微な補修を行うことがありますが、価値の高いレコードについては専門の修復業者を紹介しています。

保管時の注意点 ジャケットを重ねて保管する際は、10~15枚程度までに留めることが重要です。重すぎると下のジャケットに跡がついたり、変形の原因となります。

また、書棚などに保管する際は、きつく詰め込み過ぎないよう注意が必要です。取り出し時にジャケットが破れる原因となります。

静電気対策と環境改善

レコード再生における静電気は、音質劣化だけでなく、埃の付着やパチパチ音の原因となります。効果的な静電気対策をご紹介します。

静電気が発生する仕組み レコードと針、レコードと空気の摩擦により静電気が発生します。特に乾燥した環境では静電気が蓄積しやすく、埃を引き寄せる原因となります。

当店では、冬場の暖房による乾燥時期に静電気トラブルが多発した経験があります。湿度が30%を下回ると、レコード再生時のパチパチ音が顕著に増加することを確認しています。

アンチスタティック製品の活用 静電気除去スプレーや導電性ブラシを使用することで、静電気を効果的に除去できます。ただし、レコード専用の製品を使用することが重要です。

当店では、ナガオカ製の帯電防止ブラシとオーディオテクニカ製の静電気除去スプレーを併用しています。特に埃の多い環境や乾燥した日には、これらの製品の効果を実感できます。

イオン発生器の効果 空気中にマイナスイオンを放出する機器は、静電気の中和に効果的です。当店では、レコード試聴コーナーに小型のイオン発生器を設置し、静電気の発生を抑制しています。

グラウンド(アース)の重要性 ターンテーブルやアンプの適切なアース接続は、静電気だけでなくハムノイズの除去にも効果があります。特に古い建物や電気設備では、アース不良による音質劣化が起こりやすいため注意が必要です。

環境湿度の管理 前述の保管湿度と同様に、再生環境の湿度管理も重要です。45~60%の湿度を維持することで、静電気の発生を抑制できます。

当店では、各フロアに湿度計を設置し、季節に応じて加湿器や除湿器を稼働させています。お客様からも「他店よりもパチパチ音が少ない」とのお声をいただいています。

衣服の素材にも注意 化繊の衣服は静電気を発生しやすく、レコードに近づくだけで埃を引き寄せることがあります。レコードを扱う際は、綿製の衣服を着用することをおすすめします。

当店スタッフには、勤務時は綿製のエプロンを着用してもらい、静電気の発生を最小限に抑えています。

まとめ:長期保存のためのチェックリスト

これまでお伝えしてきた内容を、実践的なチェックリストとしてまとめます。日常の管理にお役立てください。

日常管理(使用の度に) ・レコードは外周とレーベル部分のみを持つ ・使用前後にドライブラッシング ・針先のクリーニング ・垂直保管の確認 ・ジャケットの外袋装着確認

週次管理 ・保管環境の温湿度チェック(温度18-22度、湿度45-55%) ・よく使用するレコードの湿式クリーニング ・針圧の確認 ・静電気対策用品のメンテナンス

月次管理 ・全コレクションの湿式クリーニング ・針の状態確認(必要に応じて交換) ・保管棚の整理整頓 ・ジャケット状態の確認

年次管理 ・カートリッジの総点検 ・保管環境の見直し ・貴重盤の専門クリーニング検討 ・保護用品(内袋、外袋など)の交換

当店では、これらのチェックリストに基づいて日々のメンテナンスを行っており、開店から15年間、大切なレコードコレクションを良好な状態で維持しています。

最後に レコードは単なる音楽メディアではなく、アーティストの想いや時代の記憶が刻まれた貴重な文化遺産です。適切な取り扱いと保管により、次の世代にもその美しい音色を伝えることができます。

ライブ喫茶ELANでは、これからもお客様と一緒に音楽文化の継承に取り組んでまいります。レコードに関するご質問やお悩みがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。名古屋の音楽愛好家の皆様のお越しを、心よりお待ちしております。

音楽とコーヒーを愛する皆様と、これからも素晴らしい時間を共有していけることを楽しみにしています。

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Cafe & Music ELAN 

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